熊本滞在最終日の今夜は、初日と同じく宴会が開かれた。
ただし、明日は早朝に出発するので、酒は少なめの小規模な宴会だった。
「結局、留守居からはなんの連絡も無かったんだな」
盃を傾けながら清正が言った。
留守居の深水頼蔵には、なにか不穏なことがあれば、即刻熊本へ使者を出すように言いつけてある。
「はい。なにもありませんでした」
殿がそう答えると、清正は「そうか」と頷いていた。
「お前らだけで手に負えないようなことがあったら、俺を頼れよ。すぐに行ってやるから」
ありがとうございます、と殿は頭を下げた。
「その代わりと言ってはなんだが」
清正は盃を置いた。
その言葉に、殿も俺も身構えた。
「小西の奴の弱みとか恥ずかしいところを知ったら、俺に教えろよ」
清正は小西が心底憎たらしい、という顔をつくった。
殿は拍子抜けしたようだが、すぐ笑顔になり、
「分かりました。でも、加藤さんの恥ずかしいところを小西さんに流してしまったので、あまり意味が無いかもしれませんが」
と、要らぬことを報告した。
殿が笑顔になったときに、目で殺さなかったのは失態だった。
慌てて清正は座を立って殿の元へ行き、「なにを言った?」と殿を揺さぶりながら詰問し始めた。
外見によらず、清正は神経質である。
こんな些細なことで、有事の際に期待できる大きな援軍をふいにするのは馬鹿馬鹿しい。
殿は答えるのを渋っていたが、殿様の御ため、
「殿。言わなければ、私が清正殿に殿の恥ずかしい話を致しますよ」
と言うと、殿はおとなしく白状を始めた。
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