殿の今日の朝食にはつくしの胡麻和えがついていたらしい。
城にこもりがちな日々であると、季節を膳で感じることも多い。
「よりあにのにはついてなかったの?」
「つくしは調理の手間が掛かりますし、まだ皆が食べられるだけ生えていないでしょうから」
そう答えながら、昔、姉上に手を引かれて球磨川近くにつくしを摘みに行ったことを思い出した。
料理するのに適当な量が採れたときは、日の差す縁側で姉上とふたり、つくしの袴を取ったものだった。
それを殿に話すと、殿は「そういうのいいよなあ」と羨ましげな声を上げた。
「いつか弟と、つくしを肴に夜桜でも見てみたいな」
「長誠様が酒を飲めるようになるまで、3,4年ほど待たねばなりませんよ」
「いいさ。遠くにいる1年より、傍にいる4年のほうが短い」
殿は筆を置いて寝転がり、「早く帰してやらないとな」と呟いた。
それはまさに兄の横顔だった。
が、すぐに跳ね起き、
「もし、長誠が薩摩のほうが居心地が良いから帰らない、って言ったらどうしよう」
と、縋るような表情で俺に意見を求めてきた。
俺は殿様の御ため、
「長誠様は球磨のお方です。故郷を蔑ろにし、他国にうつつを抜かすようなことは決してなさいません。それになによりも、兄が待っているからには、必ずこの地にお帰りになるでしょう」
と、長誠様が球磨に帰ってくることを保証した。
殿は「だよね」とすこしは安心した様子だった。
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