昨夜遅くに殿の部屋の近くを通り掛かると、障子にろうそくの明かりが映っていた。
普段なら殿は寝ている時間だった。
小声で声を掛けて障子を開けると、殿は布団に入り、うつ伏せの姿勢で枕に顎を乗せていた。
「眠れないのですか」
そう訊ねると、殿は「うん」とうつ伏せのまま答えた。
珍しいこともあるものだ、と思いながら、俺は
「白湯でも飲みますか」
と勧めてみた。
「余計に寝られなくなるよ」
白湯を飲めば少しは眠りやすくなるものだが、殿はむしろ眠れないと言い出した。
「厠に行きたいけど面倒でさ。白湯なんか飲んだら余計に行きたくなるじゃないか」
心配した俺がばかだった。
殿様の御ため、俺は殿の布団を引き剥がし、明かりを持たせて部屋から追い出すようにして厠に行かせた。
厠から戻って来ると、殿は布団に入るなり眠った。
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