所用あって城下町を歩いていると、最も関わり合いたくない人物が前から歩いてくるのを見掛けた。
竹下監物である。
深水一門に属し、なにかにつけて父や俺に反発の態度を示してきた。
父の隠居後はその姿を見ることもなく、どこかのくだらない戦に巻き込まれでもして亡き者になったのだと思っていたが、まだ存命のようであった。
顔も合わせたくなかったので、俺は真っ直ぐ進むつもりだった道を途中の小道で左に逸れた。
「竹下監物か」
城に戻って監物のことを殿に報告すると、殿は「厄介だ」と言わんばかりの表情になった。
「昔は頼蔵の側にいたけれど、いまは頼蔵から距離を置いて単独でなにかを企んでいるのかもしれないね」
監物は俺を執政に推す深水長智に反対し、長智の甥である頼蔵の推薦を強引に求めた。
しかし、結果として頼蔵を執政に据えることはできなかった。
これまではその不満が犬童家に向かっていたが、ともすれば相良のお家に向かう可能性もある。
殿は「頼蔵から距離を置いて」と言っているが、実際、頼蔵と監物の行動が無関係であると確認された事実はない。
恐らく、殿は頼蔵の関与の疑いを捨て切れないまでも、有能な頼蔵を失いたくないが故に監物と無関係であることを望み、明言を避けたのだろう。
もし、いま監物が領内で反乱を起こせば、島津が介入してくるに違いない。
そうなれば、これまでの苦労は水泡に帰すだろう。
殿様の御ため、外交だけでなく、殿の願う「求磨郡内安全」にも力を注がねばならない。
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