殿の部屋の近くを通ったとき、深水頼蔵がそこから出てくるところを見た。
もしかすると、と思い、俺は頼蔵が廊下の角を曲がるのを待って殿の部屋に入った。
「殿、頼蔵に監物のことを訊ねたのですか」
殿の前に座るや否や、俺は予想していたことを殿にぶつけた。
殿は「はっきりさせておきたかったからね」と頷いた。
詳しく聞くと、どうも監物は過激な行動に走りがちであるので、俺の父の隠居を機に、頼蔵が監物をくに外れで大人しくしておくよう命じたらしい。
ここ数年ほど見掛けなかったのはそのためで、昨日俺が見たのは、久々に城下町に行っても良いという許可を自分が出したからだ、と頼蔵は説明したようだった。
よって、深水側が不穏な動きをしているという見解はあり得ず、殿には安心してもらいたいということだったそうだ。
「殿はそれを信じるのですか」
俺には頼蔵の説明は言い訳にしか聞こえなかった。
監物が姿を現したことにここまで危機感を覚えるのは俺の私情、はたまた私怨だと指摘されれば否定しきれぬ部分もあるだろう。
しかし、この大事な時期に不穏な空気を留めておくのは殿様の御ために良くないのである。
「信じてみる」
俺の思いとは逆に、殿はすこしも迷わずに断言した。
「よりあにの言いたいこともわかるけど、いまは頼蔵が要るんだ」
頼蔵は、外交の手腕に長けた深水長智の甥である。
その才は確かに頼蔵にも受け継がれているので、殿は今後のために頼蔵を手元に置いておきたいのであろう。
それもまたお家のためなのだ、と俺は自分に言い聞かせ、殿の前を失礼した。
妙な影が見え隠れしているにも関わらず、変わりなく殿の信頼を得た頼蔵を羨ましくも思う。
もしかすると、と思い、俺は頼蔵が廊下の角を曲がるのを待って殿の部屋に入った。
「殿、頼蔵に監物のことを訊ねたのですか」
殿の前に座るや否や、俺は予想していたことを殿にぶつけた。
殿は「はっきりさせておきたかったからね」と頷いた。
詳しく聞くと、どうも監物は過激な行動に走りがちであるので、俺の父の隠居を機に、頼蔵が監物をくに外れで大人しくしておくよう命じたらしい。
ここ数年ほど見掛けなかったのはそのためで、昨日俺が見たのは、久々に城下町に行っても良いという許可を自分が出したからだ、と頼蔵は説明したようだった。
よって、深水側が不穏な動きをしているという見解はあり得ず、殿には安心してもらいたいということだったそうだ。
「殿はそれを信じるのですか」
俺には頼蔵の説明は言い訳にしか聞こえなかった。
監物が姿を現したことにここまで危機感を覚えるのは俺の私情、はたまた私怨だと指摘されれば否定しきれぬ部分もあるだろう。
しかし、この大事な時期に不穏な空気を留めておくのは殿様の御ために良くないのである。
「信じてみる」
俺の思いとは逆に、殿はすこしも迷わずに断言した。
「よりあにの言いたいこともわかるけど、いまは頼蔵が要るんだ」
頼蔵は、外交の手腕に長けた深水長智の甥である。
その才は確かに頼蔵にも受け継がれているので、殿は今後のために頼蔵を手元に置いておきたいのであろう。
それもまたお家のためなのだ、と俺は自分に言い聞かせ、殿の前を失礼した。
妙な影が見え隠れしているにも関わらず、変わりなく殿の信頼を得た頼蔵を羨ましくも思う。
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