ここ数日、殿は誰かと連絡を取っていた様子だった。
雑務ならば俺が代わると言っても、頑なに「僕がやるから」と言って聞かない。
まだ島津義弘が居ると言うのに、加藤清正と書状を交わしていたならばただ事ではない。
せめて相手が誰なのかを訊こうと思ったが、筆を動かす様のその軽やかさを見ていると、穏やかならぬものではないと伝わってきた。
「今朝、殿が私たちにこれをくれたのですよ」
用あって了心様の部屋に伺ったとき、そう言って小袋を差し出された。
良い香りがする。
「これは五木の茶葉ですね」
「今日は良い夫婦の日だそうで。あの人ともども、これをよくいただいておりました」
了心様は懐かしそうに目を細めた。
「殿は覚えておいでだったのですね」
息子の思いやりに感動してか、母君の睫毛は濡れていた。
殿も粋なことをする。
幾日も掛けて自ら五木の茶職人に掛け合い、両親に対する尊敬を精一杯表現しようとした。
「今日は1杯だけいただいて、次はあの人の命日に2杯淹れ、今年1年の報告をしながら一緒にいただこうと思っています」
了心様は小袋を掌で優しく包んだ。
「あなたの遺した息子は、優しくも頼もしい、相良家の立派な殿になっております、と」
夕刻、二の丸で猫と戯れている島津義弘を見つけた。
「へえ、あいつもやるなぁ。にしても、女って大変だな。男は戦に出ても自分が頑張ればなんとかなるけどさ、女は旦那が生きて帰るかどうかも、旦那が死んだときの自分の今後のことも、自分ではどうこうできないんだぜ」
「ですから、我々はそれこそ死に物狂いで生きて帰ろうとするのでしょう」
「あぁそうか!お前、よく分かってんだなぁ。もしかしてバツイチか?」
この寒い最中に散々な言われようである。
「違います。冷え込んで参りましたので、そろそろ中にお入りください」
俺が戦場からどうしても生きて帰りたいと思うのは、一途に殿様の御ためである。
殿の補佐役を仰せ付かった以上、殿の許しもなく野に死すことは紛れも無く大罪なのである。
雑務ならば俺が代わると言っても、頑なに「僕がやるから」と言って聞かない。
まだ島津義弘が居ると言うのに、加藤清正と書状を交わしていたならばただ事ではない。
せめて相手が誰なのかを訊こうと思ったが、筆を動かす様のその軽やかさを見ていると、穏やかならぬものではないと伝わってきた。
「今朝、殿が私たちにこれをくれたのですよ」
用あって了心様の部屋に伺ったとき、そう言って小袋を差し出された。
良い香りがする。
「これは五木の茶葉ですね」
「今日は良い夫婦の日だそうで。あの人ともども、これをよくいただいておりました」
了心様は懐かしそうに目を細めた。
「殿は覚えておいでだったのですね」
息子の思いやりに感動してか、母君の睫毛は濡れていた。
殿も粋なことをする。
幾日も掛けて自ら五木の茶職人に掛け合い、両親に対する尊敬を精一杯表現しようとした。
「今日は1杯だけいただいて、次はあの人の命日に2杯淹れ、今年1年の報告をしながら一緒にいただこうと思っています」
了心様は小袋を掌で優しく包んだ。
「あなたの遺した息子は、優しくも頼もしい、相良家の立派な殿になっております、と」
夕刻、二の丸で猫と戯れている島津義弘を見つけた。
「へえ、あいつもやるなぁ。にしても、女って大変だな。男は戦に出ても自分が頑張ればなんとかなるけどさ、女は旦那が生きて帰るかどうかも、旦那が死んだときの自分の今後のことも、自分ではどうこうできないんだぜ」
「ですから、我々はそれこそ死に物狂いで生きて帰ろうとするのでしょう」
「あぁそうか!お前、よく分かってんだなぁ。もしかしてバツイチか?」
この寒い最中に散々な言われようである。
「違います。冷え込んで参りましたので、そろそろ中にお入りください」
俺が戦場からどうしても生きて帰りたいと思うのは、一途に殿様の御ためである。
殿の補佐役を仰せ付かった以上、殿の許しもなく野に死すことは紛れも無く大罪なのである。
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