「町の至る所に雛人形が飾られていましたよ」
茶を貰いにゆくと、丁度仕入れから帰ってきた台所の者が和んだ表情をしていた。
雛人形は普段は子供、特に女の遊び道具であるが、3月3日だけは特別にあつらえた台に飾りつける。
よって、娘のいる家の軒先には必ず並べられている。
姉上が嫁に行くまでは、実家でも毎年門の前に雛人形を並べていた。
ある年、それを見た幼い頃の殿は羨ましがり、俺は下策を承知で小さな木彫りのキジ馬を7つ8つ用意した。
そして「代わりにこれを並べたらどうか」とキジ馬を差し出してみると、殿は思いのほか大いに喜び、ついには雛人形よりキジ馬並べを好むほどになった。
「今年はこの並びにしてみたよ」
朝の挨拶のために殿の部屋に入ると、すでに殿は台の上に11のキジ馬を並べていた。
残念ながら、俺にはどこの並びがどう変わったのかはわからなかった。
「でも、本当は雛人形を飾るんだよね」
そう言って殿は11のキジ馬を眺め、なにか思い付いたような顔をした。
「もし、よりあにに女の子ができたら、僕が雛人形を用意してやるからね」
大胆な約束をさらりと俺に与えると、殿はキジ馬に11のキジ馬を見せ始めた。
俺は殿様の御ため、その厚意に応えるために、生涯で初めて娘を欲しいと思った。
茶を貰いにゆくと、丁度仕入れから帰ってきた台所の者が和んだ表情をしていた。
雛人形は普段は子供、特に女の遊び道具であるが、3月3日だけは特別にあつらえた台に飾りつける。
よって、娘のいる家の軒先には必ず並べられている。
姉上が嫁に行くまでは、実家でも毎年門の前に雛人形を並べていた。
ある年、それを見た幼い頃の殿は羨ましがり、俺は下策を承知で小さな木彫りのキジ馬を7つ8つ用意した。
そして「代わりにこれを並べたらどうか」とキジ馬を差し出してみると、殿は思いのほか大いに喜び、ついには雛人形よりキジ馬並べを好むほどになった。
「今年はこの並びにしてみたよ」
朝の挨拶のために殿の部屋に入ると、すでに殿は台の上に11のキジ馬を並べていた。
残念ながら、俺にはどこの並びがどう変わったのかはわからなかった。
「でも、本当は雛人形を飾るんだよね」
そう言って殿は11のキジ馬を眺め、なにか思い付いたような顔をした。
「もし、よりあにに女の子ができたら、僕が雛人形を用意してやるからね」
大胆な約束をさらりと俺に与えると、殿はキジ馬に11のキジ馬を見せ始めた。
俺は殿様の御ため、その厚意に応えるために、生涯で初めて娘を欲しいと思った。
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