今日は曇りがちながらも陽が差すほどには晴れ、まずまずの天気だった。
しかし、空に詳しい者が「雨が来る」と言うので、俺は殿を連れて梅の花見に出掛けた。
行き先は、人吉で最も梅を多く植えている梅園である。
花自体はまだ満開とは言えなかったが、それに近い咲き具合だった。
「いいね、春だね」
満開でなくとも殿は喜び、満足げに梅を観賞してくれた。
「この時期が良いものです。この梅の次には桜があります」
「桜餅か」
「いいえ、桜餅ではなく桜です」
「桜と言ったら桜餅だろ」
「…そうですね」
結局俺は根負けし、春の風流な楽しみはただの食欲に成り下がった。
が、帰り道、
「今年の花は小ぶりだけど、そのぶんひとつひとつが慎ましやかで綺麗だったね。来年も行こうな」
と、殿は今日初めて真面目に梅の感想を語った。
俺は殿様の御ため、
「ぜひご一緒させていただきます」
と答えた。
来年も、再来年も、そして殿の一生で最後に見る梅も、俺が供をしたいのである。
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