先月より2日早く、深水頼蔵が会計資料の確認にやってきた。
「残暑がまだ厳しいですね」
と言いながら、頼蔵は俺が差し出した資料をめくっていた。
常時閉め切っているからか俺の部屋は暑いらしく、「障子を開けてもいいですか?」と頼蔵は訊いてきたが、反対するのも面倒なので、俺は好きなようにさせた。
反対と言うのも、もちろん開けると風が入ってきて寒いという理由もあるが、野生のキジ馬が入り込んでくるのが気に入らないという理由もある。
案の定、頼蔵がそろばんを弾いている間、俺は近寄ってくる野生のキジ馬を終始追い払っていた。
計算を終えると、頼蔵は「頼兄殿」と俺を呼んだ。
「先月の支出が先々月の約2倍になっていますね。とくにこの雑費とはなんですか?」
一番訊かれたくない内容を一番訊かれたくない奴に訊かれ、俺はすこし言葉に詰まった。
その様子を見て、鋭くも頼蔵はなにかがあると勘付いたらしく、詰問するような目で俺を見た。
俺は鷲掴みにされて暴れるキジ馬を放した。
「たいした用途じゃない」
「今度こそなにか良からぬことでも?」
違う、と言うと、
「先々月の約2倍と言うことは、キジ馬の食費2頭分、ということですね。もしかして、キジ馬でも飼い始めたのですか?」
「眼鏡割るぞ」
俺の先々月の出費が、殿のキジ馬のえさ代と同額であったことをいまだに覚えているのはしつこい。
「では、なんですか。私は仕事上、あなたの収入の使い道を把握しなければならないのです」
面倒だ、と思いつつも、観念して白状した。
「甥と姪にやった小遣いだ」
すこし間が空いて、頼蔵は「それだけですか」と拍子抜けしたような顔で呟いた。
俺は「それだけだ」と答えて、まだ近寄ってくる野生のキジ馬を足で追い払った。
「へぇ、あなたにもそういう一面があったのですね」
頼蔵は微笑し、書類をまとめて立ち上がった。
こんなことを言われたくなかったので、言いたくなかった。
頼蔵は部屋を出るとき、すなわち俺の横を通り過ぎるとき、
「頼兄殿、よいことを教えて差し上げましょう」
と言った。
「先程、あなたが足で払ったキジ馬は殿のキジ馬ですよ」
ふと下を見ると、怯え切った目付きで俺を見上げているキジ馬がいた。
キジ馬好きな殿様の御ため、この旨を報告し、きちんとお叱りを受けた。
しかし、殿においては、見分けがつくようにキジ馬になんらかの目印を付けて欲しいと思う。
「残暑がまだ厳しいですね」
と言いながら、頼蔵は俺が差し出した資料をめくっていた。
常時閉め切っているからか俺の部屋は暑いらしく、「障子を開けてもいいですか?」と頼蔵は訊いてきたが、反対するのも面倒なので、俺は好きなようにさせた。
反対と言うのも、もちろん開けると風が入ってきて寒いという理由もあるが、野生のキジ馬が入り込んでくるのが気に入らないという理由もある。
案の定、頼蔵がそろばんを弾いている間、俺は近寄ってくる野生のキジ馬を終始追い払っていた。
計算を終えると、頼蔵は「頼兄殿」と俺を呼んだ。
「先月の支出が先々月の約2倍になっていますね。とくにこの雑費とはなんですか?」
一番訊かれたくない内容を一番訊かれたくない奴に訊かれ、俺はすこし言葉に詰まった。
その様子を見て、鋭くも頼蔵はなにかがあると勘付いたらしく、詰問するような目で俺を見た。
俺は鷲掴みにされて暴れるキジ馬を放した。
「たいした用途じゃない」
「今度こそなにか良からぬことでも?」
違う、と言うと、
「先々月の約2倍と言うことは、キジ馬の食費2頭分、ということですね。もしかして、キジ馬でも飼い始めたのですか?」
「眼鏡割るぞ」
俺の先々月の出費が、殿のキジ馬のえさ代と同額であったことをいまだに覚えているのはしつこい。
「では、なんですか。私は仕事上、あなたの収入の使い道を把握しなければならないのです」
面倒だ、と思いつつも、観念して白状した。
「甥と姪にやった小遣いだ」
すこし間が空いて、頼蔵は「それだけですか」と拍子抜けしたような顔で呟いた。
俺は「それだけだ」と答えて、まだ近寄ってくる野生のキジ馬を足で追い払った。
「へぇ、あなたにもそういう一面があったのですね」
頼蔵は微笑し、書類をまとめて立ち上がった。
こんなことを言われたくなかったので、言いたくなかった。
頼蔵は部屋を出るとき、すなわち俺の横を通り過ぎるとき、
「頼兄殿、よいことを教えて差し上げましょう」
と言った。
「先程、あなたが足で払ったキジ馬は殿のキジ馬ですよ」
ふと下を見ると、怯え切った目付きで俺を見上げているキジ馬がいた。
キジ馬好きな殿様の御ため、この旨を報告し、きちんとお叱りを受けた。
しかし、殿においては、見分けがつくようにキジ馬になんらかの目印を付けて欲しいと思う。
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