殿は昔、花押というものに憧れていた。
当主の許可を得るために提出された文書に、父親がさらさらと花押を書く姿を横で見ていた故であろう。
「僕も大人になったら、あれを書かせてもらえるの?」
と、元服前、殿は俺にこう訊ねた。
殿は次男なので、お家を代表しての花押を書くことは無理でしょうが、きっと貰えますよ、と俺は答えておいた。
あれから10年以上経ち、殿はお家を代表して花押を書く身分になった。
今日も、当主の許可を求める文書が山ほど殿の部屋に持ち込まれた。
殿は、1枚取っては花押を書き、また1枚取っては花押を書く。
その作業を横目で見ていた俺は、殿様の御ため、
「殿、書けばいいというものではありませんよ」
と言った。
殿は筆を持ったまま、気まずそうな目で俺を上目に見た。
文書はきちんと全部読め。
当主の許可を得るために提出された文書に、父親がさらさらと花押を書く姿を横で見ていた故であろう。
「僕も大人になったら、あれを書かせてもらえるの?」
と、元服前、殿は俺にこう訊ねた。
殿は次男なので、お家を代表しての花押を書くことは無理でしょうが、きっと貰えますよ、と俺は答えておいた。
あれから10年以上経ち、殿はお家を代表して花押を書く身分になった。
今日も、当主の許可を求める文書が山ほど殿の部屋に持ち込まれた。
殿は、1枚取っては花押を書き、また1枚取っては花押を書く。
その作業を横目で見ていた俺は、殿様の御ため、
「殿、書けばいいというものではありませんよ」
と言った。
殿は筆を持ったまま、気まずそうな目で俺を上目に見た。
文書はきちんと全部読め。
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