今日は休日だった。
墨が残りわずかであったので、城下町に買いに行った。
買いに行く店は、いつも決めてある。
父も利用しており、俺も元服する前から通っている店である。
俺が声を掛けると、商品の整理をしていた店主がこちらにやって来た。
愛想のいい男だ。
「これは犬童様、いつもの御用でございますか」
「あぁ、いつものをくれ」
俺が手短にそう答えると、店主は品の準備をしながら話を始めた。
「お父上もさることながら、ご子息の頼兄様もずいぶんとご出世なさいました。それなのに、このような小店をご贔屓にしていただいて、誠に身に余る光栄でございます」
「出世か」と俺は呟いた。
耳ざとくそれをも聞いた店主は、「はい」と頷いた。
「頼兄様においては、まだまだご出世なさいますでしょう」
数多くいる城勤めの人間のうち、殿に直接会えるのは僅かである。
その僅かのうち、殿の側にいられるのはまた僅かである。
相当限られた特権のなかで、俺は殿の補佐役と言う実質2番目の地位にいる。
今より出世するとすれば、殿に取って代わることしかないであろう。
そう思ったとき、俺は不覚にも「悪くはない」と感じてしまった。
その店には、子供のちょっとした玩具も置いてある。
ふと横を見ると、風車が風に吹かれてからからと回っていた。
まだ殿が幼い頃、墨を買いに来たついでに、殿に土産としてこれを買って帰った記憶がある。
殿はたいそう喜んでくれ、壊れて直しようがなくなるまで、俺が買ってきた風車で遊んでくれた。
「こちらの風車は、『殿様もお気に召された品』として売らせていただいております」
さらに店主が言うには、その店は「犬童家御用達の店」を看板にしているらしい。
なかなか商魂逞しい店主である。
俺は金を払い、品を受け取って帰った。
殿様の御ために働くことは、同時に自分の出世のためなのであろうか。
そうではない。
俺はあくまでも、殿様の御ために働くのだ。
墨が残りわずかであったので、城下町に買いに行った。
買いに行く店は、いつも決めてある。
父も利用しており、俺も元服する前から通っている店である。
俺が声を掛けると、商品の整理をしていた店主がこちらにやって来た。
愛想のいい男だ。
「これは犬童様、いつもの御用でございますか」
「あぁ、いつものをくれ」
俺が手短にそう答えると、店主は品の準備をしながら話を始めた。
「お父上もさることながら、ご子息の頼兄様もずいぶんとご出世なさいました。それなのに、このような小店をご贔屓にしていただいて、誠に身に余る光栄でございます」
「出世か」と俺は呟いた。
耳ざとくそれをも聞いた店主は、「はい」と頷いた。
「頼兄様においては、まだまだご出世なさいますでしょう」
数多くいる城勤めの人間のうち、殿に直接会えるのは僅かである。
その僅かのうち、殿の側にいられるのはまた僅かである。
相当限られた特権のなかで、俺は殿の補佐役と言う実質2番目の地位にいる。
今より出世するとすれば、殿に取って代わることしかないであろう。
そう思ったとき、俺は不覚にも「悪くはない」と感じてしまった。
その店には、子供のちょっとした玩具も置いてある。
ふと横を見ると、風車が風に吹かれてからからと回っていた。
まだ殿が幼い頃、墨を買いに来たついでに、殿に土産としてこれを買って帰った記憶がある。
殿はたいそう喜んでくれ、壊れて直しようがなくなるまで、俺が買ってきた風車で遊んでくれた。
「こちらの風車は、『殿様もお気に召された品』として売らせていただいております」
さらに店主が言うには、その店は「犬童家御用達の店」を看板にしているらしい。
なかなか商魂逞しい店主である。
俺は金を払い、品を受け取って帰った。
殿様の御ために働くことは、同時に自分の出世のためなのであろうか。
そうではない。
俺はあくまでも、殿様の御ために働くのだ。
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