昨夜、俺と深水頼蔵は殿の部屋に呼ばれた。
今週末から加藤清正の居城熊本城に行くに当たって、その間の島津対策についての会議であった。
俺は殿について熊本に行くが、頼蔵は留守居を務める。
要するに、両者口裏合わせのための会議だ。
それが丑三つ時過ぎまで長引いた。
殿はいつもは日付が変わる前に寝てしまうので、9日になる頃にはかなり眠たげな様子だった。
それでも、台所の連中が気を遣ってもってきた夜食をきれいに平らげていた。
口裏合わせも済み、解散となると、殿は「ご苦労様、おやすみ」と言って布団に入り、すぐに眠ってしまった。
気配を感じて目を覚ましたキジ馬は、殿の側へ寄り添って再び眠っていた。
それぞれの部屋に戻るため、なぜそうなるのか頼蔵と廊下を歩いていると、頼蔵が、
「頼兄殿、ご存知ですか」
と言った。
「昨夜は三日月だったのですよ」
頼蔵は立ち止まり、月などとうに沈んでしまった夜空を見上げた。
この城は、別名「繊月城」と呼ばれている。
その名称と、昨夜の月を掛けたのであろう。
この時期の三日月は、夜更けの頃によく映えて見えるが、しかしその頃は沈みかけの三日月である。
「残念だが、機会が無く、夕方の(のぼりかけの)三日月しか見たことがなくてな」
俺は襟巻きを整えながら頼蔵に言った。
返事を待っていた頼蔵は、すこし間を置いて微笑した。
そして、
「あなたはほんとうにご忠義の厚い方だ」
と、半ば呆れ気味の顔で、しかし満更でもなさそうな顔をした。
すべては殿様の御ために。
殿の熊本行きを成功させるには、なによりも忠義第一、奉公第一である。
今週末から加藤清正の居城熊本城に行くに当たって、その間の島津対策についての会議であった。
俺は殿について熊本に行くが、頼蔵は留守居を務める。
要するに、両者口裏合わせのための会議だ。
それが丑三つ時過ぎまで長引いた。
殿はいつもは日付が変わる前に寝てしまうので、9日になる頃にはかなり眠たげな様子だった。
それでも、台所の連中が気を遣ってもってきた夜食をきれいに平らげていた。
口裏合わせも済み、解散となると、殿は「ご苦労様、おやすみ」と言って布団に入り、すぐに眠ってしまった。
気配を感じて目を覚ましたキジ馬は、殿の側へ寄り添って再び眠っていた。
それぞれの部屋に戻るため、なぜそうなるのか頼蔵と廊下を歩いていると、頼蔵が、
「頼兄殿、ご存知ですか」
と言った。
「昨夜は三日月だったのですよ」
頼蔵は立ち止まり、月などとうに沈んでしまった夜空を見上げた。
この城は、別名「繊月城」と呼ばれている。
その名称と、昨夜の月を掛けたのであろう。
この時期の三日月は、夜更けの頃によく映えて見えるが、しかしその頃は沈みかけの三日月である。
「残念だが、機会が無く、夕方の(のぼりかけの)三日月しか見たことがなくてな」
俺は襟巻きを整えながら頼蔵に言った。
返事を待っていた頼蔵は、すこし間を置いて微笑した。
そして、
「あなたはほんとうにご忠義の厚い方だ」
と、半ば呆れ気味の顔で、しかし満更でもなさそうな顔をした。
すべては殿様の御ために。
殿の熊本行きを成功させるには、なによりも忠義第一、奉公第一である。
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