4月も中旬に差し掛かり、十分暖かくなって来たということで、球磨川の堤防工事の件が進められることになった。
工事には大勢の人夫が必要である。
城下の中心部や農村部に人夫を募る触れを出し、さっそく働き手の確保を始めた。
「覚兵衛さんが言っていたけど、加藤さんが上手く工事を完成させられたのは、働く人にきちんと日当と農作業の時間を取らせたからだってさ。僕らもそうしようね」
殿はそう言い、工事の過程のみならず、人の使い方でも加藤の良いところを再現しようとしていた。
「頼兄殿には、人材調達に出向いていただきたいと思います」
全体の会議が解散となると、深水頼蔵が俺に声を掛けてきた。
どういうことかと訊ねようとしたところ、頼蔵はとりあえず自分の部屋に来て欲しいと小声で言った。
殿にはあまり聞かれたくない様子であった。
なにを話すのだろうかと俺は興味を持ち、頼蔵の部屋に場所を移して改めて問うた。
「暖かくなったことですし、椎葉の娘さんを訪ねて欲しいのです」
椎葉の娘と言えば、殿の嫁の候補である。
「それはお前のほうが適役だろう。俺が女を上手く口説けるはずがない」
「私はこちらに残り、会計として資金調達をせねばなりません」
「岡本殿はどうなんだ」
「岡本殿にはあの山は険しすぎます。それに」
頼蔵はそこで突然言葉を止め、俺を見て嫌な笑いを浮かべた。
「あなたは殿の一番の家臣なのですから、あなたが行かずして誰が赴くと仰るのですか。これは殿の一生に関わること、殿もあなたに結婚の面倒を見てもらいたいはずです」
俺が確実に断らないであろう文句を突きつけられ、俺は椎葉行きを承諾するほかなかった。
殿様の御ためであれば、険しい山も、ましてや大事業から一旦身を引く歯がゆさも厭わない。
「わかった。さっそく明日出発する」
俺はそう答えたが、実際のところ、椎葉の娘とその父親を口説き落とせる確信は無い。
相良のお家が球磨の領主の家柄と言えど、現実熊本と薩摩の板挟みの状態であることを考慮すれば、そのような危険な場所に娘を嫁がせるのは躊躇するのではなかろうか。
この負の点をいかに好転させるかが、俺の腕に掛かっている。
工事には大勢の人夫が必要である。
城下の中心部や農村部に人夫を募る触れを出し、さっそく働き手の確保を始めた。
「覚兵衛さんが言っていたけど、加藤さんが上手く工事を完成させられたのは、働く人にきちんと日当と農作業の時間を取らせたからだってさ。僕らもそうしようね」
殿はそう言い、工事の過程のみならず、人の使い方でも加藤の良いところを再現しようとしていた。
「頼兄殿には、人材調達に出向いていただきたいと思います」
全体の会議が解散となると、深水頼蔵が俺に声を掛けてきた。
どういうことかと訊ねようとしたところ、頼蔵はとりあえず自分の部屋に来て欲しいと小声で言った。
殿にはあまり聞かれたくない様子であった。
なにを話すのだろうかと俺は興味を持ち、頼蔵の部屋に場所を移して改めて問うた。
「暖かくなったことですし、椎葉の娘さんを訪ねて欲しいのです」
椎葉の娘と言えば、殿の嫁の候補である。
「それはお前のほうが適役だろう。俺が女を上手く口説けるはずがない」
「私はこちらに残り、会計として資金調達をせねばなりません」
「岡本殿はどうなんだ」
「岡本殿にはあの山は険しすぎます。それに」
頼蔵はそこで突然言葉を止め、俺を見て嫌な笑いを浮かべた。
「あなたは殿の一番の家臣なのですから、あなたが行かずして誰が赴くと仰るのですか。これは殿の一生に関わること、殿もあなたに結婚の面倒を見てもらいたいはずです」
俺が確実に断らないであろう文句を突きつけられ、俺は椎葉行きを承諾するほかなかった。
殿様の御ためであれば、険しい山も、ましてや大事業から一旦身を引く歯がゆさも厭わない。
「わかった。さっそく明日出発する」
俺はそう答えたが、実際のところ、椎葉の娘とその父親を口説き落とせる確信は無い。
相良のお家が球磨の領主の家柄と言えど、現実熊本と薩摩の板挟みの状態であることを考慮すれば、そのような危険な場所に娘を嫁がせるのは躊躇するのではなかろうか。
この負の点をいかに好転させるかが、俺の腕に掛かっている。
PR
COMMENT