今日は朝から雨が降っていたが、夕方頃には止んだ。
地面が悪いだろうと思ったが、散歩に行きたいと言い出した殿の供をして二の丸を歩いた。
案の定、土はぬめり、石畳は滑った。
「殿、転んで怪我をする前に戻りましょう」
俺はそう言ったが、殿は嬉しそうな顔で俺を振り返った。
「花びらだよ」
指差したその先には、水溜りに浮かんだ桜の花びらがあった。
「泥水の上でもきれいだね」
確かに、濁った水のなかでも鮮やかな桃色はそのままであった。
散って泥のなかに埋もれようとも、美しいものは美しい。
俺が死ぬときは殿様の御ためであってこそ、この桜の花びらのように在れるのだ。
そう考えつつ視線を地面から上げて枝の端々まで見上げると、雨にもめげず枝を覆っている桃色があった。
己が散るべきであれば散り、まだ幹を飾るべきであれば飾る。
散るも殿様の御ため、生きるも殿様の御ため。
状況を如何に判断するかによって、価値は俄然変わる。
「桜がすべて散ってしまう前に、明日は花見でもしますか」
殿の後ろ姿に声を掛けると、「うん」と弾んだ返事が返ってきた。
地面が悪いだろうと思ったが、散歩に行きたいと言い出した殿の供をして二の丸を歩いた。
案の定、土はぬめり、石畳は滑った。
「殿、転んで怪我をする前に戻りましょう」
俺はそう言ったが、殿は嬉しそうな顔で俺を振り返った。
「花びらだよ」
指差したその先には、水溜りに浮かんだ桜の花びらがあった。
「泥水の上でもきれいだね」
確かに、濁った水のなかでも鮮やかな桃色はそのままであった。
散って泥のなかに埋もれようとも、美しいものは美しい。
俺が死ぬときは殿様の御ためであってこそ、この桜の花びらのように在れるのだ。
そう考えつつ視線を地面から上げて枝の端々まで見上げると、雨にもめげず枝を覆っている桃色があった。
己が散るべきであれば散り、まだ幹を飾るべきであれば飾る。
散るも殿様の御ため、生きるも殿様の御ため。
状況を如何に判断するかによって、価値は俄然変わる。
「桜がすべて散ってしまう前に、明日は花見でもしますか」
殿の後ろ姿に声を掛けると、「うん」と弾んだ返事が返ってきた。
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