昨日は1日ひたすら写経を続け、静かな落ち着いた時間を過ごすことができた。
反面、今日は来客があった。
「近くに寄ったから」
と、息子と末娘を連れた姉上であった。
姉上は玄関にある草履を見ただけで俺が居ると察していたが、父上は気を遣い、
「殿から休みを頂けたのだ」
と話していた。
姉上が来ていると言うのに顔を出さないわけにもゆかず、複雑な心境ではあったが居間に向かった。
話を聞いていると姉上は変わらず健在のようで、夫や姑、長女も何事も無く冬を越したということだった。
「近親縁者のなかで越冬に命懸けなのは私だけですね」
そう冗談めかすと、姉上は笑っていた。
その顔を見ているうちに、俺はふと訊ねていた。
「姉上はいま仕合せでいらっしゃいますか」
よもや俺が口に出すとは思えない言葉だったからであろう、姉上はきょとんとしていた。
「あの家に嫁いで後悔はありませんか」
姉上は今度は穏やかに笑い、答えた。
「お武家に生まれた身なのに、父上も頼兄ちゃんも私を好きなところにお嫁にいかせてくれた。後悔なんてないわ」
姉上は庭で孫に刀を教えている父上に目をやった。
これを聞いて、俺はどこか心のうちの靄が晴れたような気分になった。
「そうですか。それなら良いのです」
俺は湯飲みに口を付けた。
「実は、もしかしたら私は深水のお家の頼蔵様に嫁がされるのかも、と思っていたのよ」
姉上のとんでもない発言に、思わず茶を吹き出しそうになった。
姉上が頼蔵に嫁げば、頼蔵と俺は義兄弟となり、その上頼蔵が義兄となる。
最悪だ。
犬童家と深水家が縁戚になれば殿様の御ためになるのかも知れないが、俺は即座に出家するだろう。
反面、今日は来客があった。
「近くに寄ったから」
と、息子と末娘を連れた姉上であった。
姉上は玄関にある草履を見ただけで俺が居ると察していたが、父上は気を遣い、
「殿から休みを頂けたのだ」
と話していた。
姉上が来ていると言うのに顔を出さないわけにもゆかず、複雑な心境ではあったが居間に向かった。
話を聞いていると姉上は変わらず健在のようで、夫や姑、長女も何事も無く冬を越したということだった。
「近親縁者のなかで越冬に命懸けなのは私だけですね」
そう冗談めかすと、姉上は笑っていた。
その顔を見ているうちに、俺はふと訊ねていた。
「姉上はいま仕合せでいらっしゃいますか」
よもや俺が口に出すとは思えない言葉だったからであろう、姉上はきょとんとしていた。
「あの家に嫁いで後悔はありませんか」
姉上は今度は穏やかに笑い、答えた。
「お武家に生まれた身なのに、父上も頼兄ちゃんも私を好きなところにお嫁にいかせてくれた。後悔なんてないわ」
姉上は庭で孫に刀を教えている父上に目をやった。
これを聞いて、俺はどこか心のうちの靄が晴れたような気分になった。
「そうですか。それなら良いのです」
俺は湯飲みに口を付けた。
「実は、もしかしたら私は深水のお家の頼蔵様に嫁がされるのかも、と思っていたのよ」
姉上のとんでもない発言に、思わず茶を吹き出しそうになった。
姉上が頼蔵に嫁げば、頼蔵と俺は義兄弟となり、その上頼蔵が義兄となる。
最悪だ。
犬童家と深水家が縁戚になれば殿様の御ためになるのかも知れないが、俺は即座に出家するだろう。
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