殿が使用している文房具類の消耗品が残り僅かとなってきたので、残数を確認し、発注書を書いた。
明日御用聞きの者が来るので、早ければ週明けには注文の品が届くであろう。
それにしても、今回は紙の減りがやたら速かった。
殿が書いた書類や手紙の数には、大きな変化はなかったはずである。
おかしなこともあるものだ、とふと部屋の隅に目をやると、隠すように紙の束が置かれていた。
書き損じをまとめているのかと思い、俺は殿に訊ねるより前に、その紙の束を手にとって中身を見てみた。
すると、殿が俺のほうを見て「あ」と大きな声を上げた。
紙の束の正体は、殿が描いたキジ馬等の落書きであった。
「殿、このようなことに紙を無駄遣いされては困ります」
俺が呆れて注意すると、
「城に篭もってばかりだと、それくらいしか遊びがないんだ。それに、絵を描くのを教えてくれたのはよりあにじゃないか」
と、殿は若干拗ね気味にそう答えた。
確かに、俺が仕事をしている間はひとりでも退屈せぬよう、物心が付いたばかりの頃の殿に筆を持たせ、紙を与えたのは俺であった。
「そう言いましても、この量は考えものです」
「わかったよ、じゃあやめるよ」
殿は本格的に拗ね、そっぽを向いてしまった。
「17にもなって拗ねるとは何事ですか」
俺はそう嗜めながら殿の近くに寄り、予想外の涙目に驚いた。
「そこまで戯画がお好きなのですか」
殿は無言のまま頷いた。
それほどまでに好きなものに厳しく制限を掛ければ、殿の精神衛生上好ましくない。
かと言って、束になるほどの紙を仕事以外に使われると経費がかさむ一方である。
俺は少々考えた結果、殿様の御ため、
「では、殿。絵の具というものをご存知でしょうか。墨で描いた絵に、赤や青などの色をつけるものです。それを使って1枚1枚を丁寧に仕上げる代わりに、紙の量を減らしていただけませんか」
「キジ馬を本物みたいに赤くすることができるの?」
殿は興味ありと言う風な目で俺を見、俺が「できます」と答えると嬉しそうな顔をした。
かくして、俺は発注書に絵の具を追記し、元通り折り畳んだ。
我ながら、殿には甘い己である。
しかし、殿の生活に我慢を押し付けるばかりではなく、できる限り殿の希望も叶えることにより、広義での殿様の御ためが成り立つと考えるのである。
明日御用聞きの者が来るので、早ければ週明けには注文の品が届くであろう。
それにしても、今回は紙の減りがやたら速かった。
殿が書いた書類や手紙の数には、大きな変化はなかったはずである。
おかしなこともあるものだ、とふと部屋の隅に目をやると、隠すように紙の束が置かれていた。
書き損じをまとめているのかと思い、俺は殿に訊ねるより前に、その紙の束を手にとって中身を見てみた。
すると、殿が俺のほうを見て「あ」と大きな声を上げた。
紙の束の正体は、殿が描いたキジ馬等の落書きであった。
「殿、このようなことに紙を無駄遣いされては困ります」
俺が呆れて注意すると、
「城に篭もってばかりだと、それくらいしか遊びがないんだ。それに、絵を描くのを教えてくれたのはよりあにじゃないか」
と、殿は若干拗ね気味にそう答えた。
確かに、俺が仕事をしている間はひとりでも退屈せぬよう、物心が付いたばかりの頃の殿に筆を持たせ、紙を与えたのは俺であった。
「そう言いましても、この量は考えものです」
「わかったよ、じゃあやめるよ」
殿は本格的に拗ね、そっぽを向いてしまった。
「17にもなって拗ねるとは何事ですか」
俺はそう嗜めながら殿の近くに寄り、予想外の涙目に驚いた。
「そこまで戯画がお好きなのですか」
殿は無言のまま頷いた。
それほどまでに好きなものに厳しく制限を掛ければ、殿の精神衛生上好ましくない。
かと言って、束になるほどの紙を仕事以外に使われると経費がかさむ一方である。
俺は少々考えた結果、殿様の御ため、
「では、殿。絵の具というものをご存知でしょうか。墨で描いた絵に、赤や青などの色をつけるものです。それを使って1枚1枚を丁寧に仕上げる代わりに、紙の量を減らしていただけませんか」
「キジ馬を本物みたいに赤くすることができるの?」
殿は興味ありと言う風な目で俺を見、俺が「できます」と答えると嬉しそうな顔をした。
かくして、俺は発注書に絵の具を追記し、元通り折り畳んだ。
我ながら、殿には甘い己である。
しかし、殿の生活に我慢を押し付けるばかりではなく、できる限り殿の希望も叶えることにより、広義での殿様の御ためが成り立つと考えるのである。
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