町の様子を見るため、今日は城下に下りた。
いつもの通り、殿は市や町家、農家の畑を見て回ったが、そろそろ視察も終わりという頃、小さな武家の家が立ち並ぶ地区の近くまで来ていた。
低い垣のなかには質素な屋敷があり、庭の隅には洗濯物が干され、その物干しの周りを鶏が走っている。
「懐かしいなあ」
殿は思わず垣に近寄り、中の様子を覗き込んだ。
殿が懐かしいと言うのは、子供の頃、よく下級武士の家の子と遊んでいたからである。
国主の子を卑しい下級武士の子と遊ばせるなど、と御家中の名だたる名臣たちからは反対されたが、特定の身分の子としか接せられなければ、殿にほんとうのこの身分社会というものをわからせられない。
そう考えていたので、俺は構わず殿を下級武士の住まう地区に連れて行き、身分は明かさずに好きなように遊ばせていた。
「確かここは三郎の家だったよね」
偶然だったが、その家は殿と特に仲の良かった三郎という子の家だった。
「よりあにはいつも三郎に襟巻きを引っ張られて、恰好の玩具になっていたっけ」
「私は彼を目で殺そうと幾度も思いましたが、殿様の御ため、我慢したのです」
「僕のときは遠慮なく殺したじゃないか」
「それはそれで殿様の御ためなのです」
俺がそう答えると、
「なんだか言いくるめられているみたいだ」
と殿は口を尖らせた。
言いくるめているのではなく、殿様の御ためには様々な角度があるのです。
いつもの通り、殿は市や町家、農家の畑を見て回ったが、そろそろ視察も終わりという頃、小さな武家の家が立ち並ぶ地区の近くまで来ていた。
低い垣のなかには質素な屋敷があり、庭の隅には洗濯物が干され、その物干しの周りを鶏が走っている。
「懐かしいなあ」
殿は思わず垣に近寄り、中の様子を覗き込んだ。
殿が懐かしいと言うのは、子供の頃、よく下級武士の家の子と遊んでいたからである。
国主の子を卑しい下級武士の子と遊ばせるなど、と御家中の名だたる名臣たちからは反対されたが、特定の身分の子としか接せられなければ、殿にほんとうのこの身分社会というものをわからせられない。
そう考えていたので、俺は構わず殿を下級武士の住まう地区に連れて行き、身分は明かさずに好きなように遊ばせていた。
「確かここは三郎の家だったよね」
偶然だったが、その家は殿と特に仲の良かった三郎という子の家だった。
「よりあにはいつも三郎に襟巻きを引っ張られて、恰好の玩具になっていたっけ」
「私は彼を目で殺そうと幾度も思いましたが、殿様の御ため、我慢したのです」
「僕のときは遠慮なく殺したじゃないか」
「それはそれで殿様の御ためなのです」
俺がそう答えると、
「なんだか言いくるめられているみたいだ」
と殿は口を尖らせた。
言いくるめているのではなく、殿様の御ためには様々な角度があるのです。
PR
COMMENT