昨夜の風は大したことはなかったが、雨はよく降った。
それでも幸い球磨川は若干の増水が見られただけで、領民の避難が必要になるほどではなかった。
よく持ちこたえたと思う。
しかし、山のあちこちで崖崩れが起きたらしい。
怪我人こそ出なかったが、道が塞がり、復旧にはしばらくの時間が掛かりそうである。
そのような被害状況をまとめた書類が、陽が昇るや否や殿の元に集まり始めた。
正午が近くなる頃には、状況報告書から復旧見積もり報告書へと変わり、それらを深水頼蔵がそろばんを弾いて処理していた。
「殿、現時点での費用はこのようになりました」
殿は紙を受け取ると、「いち、に、さん…」と零の数を数え、沈黙してしまった。
「ひと月この城を動かすのに必要な資金のふた月ぶんです」
なぜこいつは、いつもいつも『この金額は何々と同額』、というような比較を持ち出すのだろうか。
「これから毎月節約して浮いたお金を充てても、何年掛かるかわからないよね」
節約と言っても、この時勢、最も金の掛かる軍費は対象外である。
大きな効果は期待できない。
そのとき、俺は棚に収められている商家の目録を見て、ふと思いついた。
「解禁しますか」
この一言を聞き、殿は紙から顔を上げた。
「いまは制限を設けている、他国との商売の権利をすべての商家に与えて経済を活発にし、その売り上げの定率を徴収してみては如何でしょうか」
もちろん、従来から特権を持っていた商家にはさらなる優遇を施し、不平を言わせぬようにする。
「それと城内の経費削減を同時進行し、半年程度を期限として今回の費用を賄えば良いかと思われます」
しばらく殿は思案していたが、
「そうだね、それでやってみようか」
と頷いた。
経済方面は頼蔵のほうが得意としているので、奴を差し置いて殿様の御ために励めたことは、今後の良い自信になった。
だが、
「頼兄殿、さすが年の功だけありますね」
俺とお前はたったの1年違いだが。
それでも幸い球磨川は若干の増水が見られただけで、領民の避難が必要になるほどではなかった。
よく持ちこたえたと思う。
しかし、山のあちこちで崖崩れが起きたらしい。
怪我人こそ出なかったが、道が塞がり、復旧にはしばらくの時間が掛かりそうである。
そのような被害状況をまとめた書類が、陽が昇るや否や殿の元に集まり始めた。
正午が近くなる頃には、状況報告書から復旧見積もり報告書へと変わり、それらを深水頼蔵がそろばんを弾いて処理していた。
「殿、現時点での費用はこのようになりました」
殿は紙を受け取ると、「いち、に、さん…」と零の数を数え、沈黙してしまった。
「ひと月この城を動かすのに必要な資金のふた月ぶんです」
なぜこいつは、いつもいつも『この金額は何々と同額』、というような比較を持ち出すのだろうか。
「これから毎月節約して浮いたお金を充てても、何年掛かるかわからないよね」
節約と言っても、この時勢、最も金の掛かる軍費は対象外である。
大きな効果は期待できない。
そのとき、俺は棚に収められている商家の目録を見て、ふと思いついた。
「解禁しますか」
この一言を聞き、殿は紙から顔を上げた。
「いまは制限を設けている、他国との商売の権利をすべての商家に与えて経済を活発にし、その売り上げの定率を徴収してみては如何でしょうか」
もちろん、従来から特権を持っていた商家にはさらなる優遇を施し、不平を言わせぬようにする。
「それと城内の経費削減を同時進行し、半年程度を期限として今回の費用を賄えば良いかと思われます」
しばらく殿は思案していたが、
「そうだね、それでやってみようか」
と頷いた。
経済方面は頼蔵のほうが得意としているので、奴を差し置いて殿様の御ために励めたことは、今後の良い自信になった。
だが、
「頼兄殿、さすが年の功だけありますね」
俺とお前はたったの1年違いだが。
PR
COMMENT