いつの間にか蝉は死に絶えていた。
早朝から1匹2匹ずつ鳴き始め、次第に庭が蝉の鳴き声で充満していくような活発な生命力は、すでに過去のものになったようである。
これから短い秋を経て、すぐに冬がやってくるであろう。
俺の最も苦手な季節だ。
肥後は南国と言えど、冬にはやはり雪が積もる。
そのうえ球磨川から川霧が立ち、昼が過ぎても消えずに漂っていることがよくある。
この霧のために、余計に寒さが増す。
ここ球磨の地の気候条件は、とことん俺に合わない。
それでも、冬になるとつい思い出す出来事がある。
昔、お家伝来の壺に悪戯をした殿が、父の義陽公に叱られ、城外に閉め出されたことがある。
よく雪の積もっている日だった。
俺は許しを請うために義陽公の部屋に入ろうとしたが、中から義陽公と殿の母の声が聞こえてきた。
その雰囲気のために中に入ることが憚られ、俺は部屋の前を素通りした。
のちに、俺は殿の母に呼び出され、殿を迎えに行ってやって欲しいと言われた。
話を聞いたところ、義陽公からなんとかお許しをいただけたということだった。
きっと、我が子のために頭を下げて謝り続け、冷たい雪の中から救ってやりたいという一心だったのだろう。
俺が迎えに出向くと、殿は泣き腫らした目で俺を見上げた。
父親が許してくれた旨を告げて城に連れて帰り、雪に濡れた着物を着替えさせて温かいものを飲ませた。
父の厳しさも、母の優しさも、たいせつなものである。
殿様の御ためも、この両者を基本として生じるものなのかもしれない。
休日の午後、炬燵を準備しながらそんなことを考えた。
早朝から1匹2匹ずつ鳴き始め、次第に庭が蝉の鳴き声で充満していくような活発な生命力は、すでに過去のものになったようである。
これから短い秋を経て、すぐに冬がやってくるであろう。
俺の最も苦手な季節だ。
肥後は南国と言えど、冬にはやはり雪が積もる。
そのうえ球磨川から川霧が立ち、昼が過ぎても消えずに漂っていることがよくある。
この霧のために、余計に寒さが増す。
ここ球磨の地の気候条件は、とことん俺に合わない。
それでも、冬になるとつい思い出す出来事がある。
昔、お家伝来の壺に悪戯をした殿が、父の義陽公に叱られ、城外に閉め出されたことがある。
よく雪の積もっている日だった。
俺は許しを請うために義陽公の部屋に入ろうとしたが、中から義陽公と殿の母の声が聞こえてきた。
その雰囲気のために中に入ることが憚られ、俺は部屋の前を素通りした。
のちに、俺は殿の母に呼び出され、殿を迎えに行ってやって欲しいと言われた。
話を聞いたところ、義陽公からなんとかお許しをいただけたということだった。
きっと、我が子のために頭を下げて謝り続け、冷たい雪の中から救ってやりたいという一心だったのだろう。
俺が迎えに出向くと、殿は泣き腫らした目で俺を見上げた。
父親が許してくれた旨を告げて城に連れて帰り、雪に濡れた着物を着替えさせて温かいものを飲ませた。
父の厳しさも、母の優しさも、たいせつなものである。
殿様の御ためも、この両者を基本として生じるものなのかもしれない。
休日の午後、炬燵を準備しながらそんなことを考えた。
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