城の一角に、栗の木を植えている場所がある。
毎年よい実が生るため、台所の連中がよく採集している。
俗に言う「栗拾い」であるが、それを台所の者から聞いた殿が目を輝かせた。
「懐かしいなあ。よりあに、またやりたい」
その輝いた目のまま、殿は俺のほうを振り返ってそう言った。
俺は思わずその目から顔を背けながら、「いいですよ」と答えた。
まるで、真夏の太陽の光を反射する川面のような眩しさであった。
密生している栗の木の周囲には、大きないがが互いに狭そうに地面に転がっていた。
殿は、それらを採っては背中の籠に投げ入れた。
ふと、そのとき。
的の外れたいがが、殿のうしろに居た俺のほうへ飛んできた。
手で受け取る訳にもいかず、また、刀を抜いて一刀両断する訳にもいかない。
避けるしか方法はなかったが、いがは丁度襟巻きに引っ掛かった。
「あ」
殿は驚いた顔で振り向いた。
「ごめん…」
殿はそう呟いたが、殿様の御ため、俺は、
「いがのひとつやふたつ、気にするまでもありません」
と言った。
戦場では、いがなどより殺傷能力の優れた弾や矢が飛び交っている。
よって、いがが飛んでくることに対してはそう神経質になる必要はない。
しかし、襟巻きにいがを乗せた格好を見られたことは恥だと思った。
それを殿に言うと、殿は、
「なんだか秋らしく見えるよ」
と、どこか羨ましげな目で俺を見た。
紅葉ならば、さまになりますけども。
その後、殿たちが栗を拾っている間、俺は襟巻きのいがを取る作業に没頭していた。
拾い終わったあと、台所の者が恐る恐る「この栗はかち栗に致しましょうか」と提案した。
殿が快く賛成したため、その者はやりがいを得たように意気揚々とした表情になった。
かち栗とは、「かち」と「勝ち」を掛けた武家の縁起物である。
台所の者もまた、俺とは違った角度から殿様の御ために考えを尽くしているようだ。
末端の者までこの様子であるのだから、相良のお家は、軸のしっかりとした奉公態勢だと思われる。
とても良いものを見られた栗拾いであった。
毎年よい実が生るため、台所の連中がよく採集している。
俗に言う「栗拾い」であるが、それを台所の者から聞いた殿が目を輝かせた。
「懐かしいなあ。よりあに、またやりたい」
その輝いた目のまま、殿は俺のほうを振り返ってそう言った。
俺は思わずその目から顔を背けながら、「いいですよ」と答えた。
まるで、真夏の太陽の光を反射する川面のような眩しさであった。
密生している栗の木の周囲には、大きないがが互いに狭そうに地面に転がっていた。
殿は、それらを採っては背中の籠に投げ入れた。
ふと、そのとき。
的の外れたいがが、殿のうしろに居た俺のほうへ飛んできた。
手で受け取る訳にもいかず、また、刀を抜いて一刀両断する訳にもいかない。
避けるしか方法はなかったが、いがは丁度襟巻きに引っ掛かった。
「あ」
殿は驚いた顔で振り向いた。
「ごめん…」
殿はそう呟いたが、殿様の御ため、俺は、
「いがのひとつやふたつ、気にするまでもありません」
と言った。
戦場では、いがなどより殺傷能力の優れた弾や矢が飛び交っている。
よって、いがが飛んでくることに対してはそう神経質になる必要はない。
しかし、襟巻きにいがを乗せた格好を見られたことは恥だと思った。
それを殿に言うと、殿は、
「なんだか秋らしく見えるよ」
と、どこか羨ましげな目で俺を見た。
紅葉ならば、さまになりますけども。
その後、殿たちが栗を拾っている間、俺は襟巻きのいがを取る作業に没頭していた。
拾い終わったあと、台所の者が恐る恐る「この栗はかち栗に致しましょうか」と提案した。
殿が快く賛成したため、その者はやりがいを得たように意気揚々とした表情になった。
かち栗とは、「かち」と「勝ち」を掛けた武家の縁起物である。
台所の者もまた、俺とは違った角度から殿様の御ために考えを尽くしているようだ。
末端の者までこの様子であるのだから、相良のお家は、軸のしっかりとした奉公態勢だと思われる。
とても良いものを見られた栗拾いであった。
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