深水頼蔵と連名で提出しなければならない書類があったので、昼下がりに頼蔵の部屋に行った。
署名するには十数枚の文書を読む必要があったが、頼蔵は「そんなに時間は掛かりませんので」と俺をそのまま待たせた。
戦時には会計係から軍師になる彼の部屋には、山ほどの合戦記述書が保管されている。
暇だったので、俺はその内の最も新しい1冊を拝借して読んだ。
頼蔵の性格を表しているかのように、それには作戦の詳細や戦の経緯が非常に事細かに記されていた。
半ば感心しながら読んでいると、妙な言葉が目に留まった。
しかもそれは1度ではなく、幾度にも渡って記述の端々に見受けられた。
「この『襟巻き隊』とはなんだ」
頼蔵が文書に目を通しているにも関わらず、俺はたまりかねて訊ねた。
「見たままですよ。あなたの隊のことです」
頼蔵は爽やかなほどに軽やかにそう答えた。
「『殿様の御ために』戦でも活躍する頼兄殿ですから、特別に扱わせていただいただけです」
「そうか。そこまで見えるとは、さすがその眼鏡は伊達ではないな」
頼蔵の口から軽々しく「殿様の御ため」を出され、俺は頼蔵の眼鏡を粉微塵にしたい衝動に駆られた。
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