覚兼は明日薩摩に戻ると言っていたが、いま降っている雨が止まなければ、もう1日留まるよう勧めなければならない。
廊下で雨空を見上げながら、覚兼は「雨が降ると川が心配になりますな」と呟いたあと、俺に向かって
「そう言えば川の堤防工事についての書類がありましたが、あれはいつ取り掛かる予定ですか」
と訊ねた。
「確定ではありませんが、春先には着工するつもりです」
覚兼は「そうですか」と頷いた。
「もしかすると、その際には我々も見学させていただくかもしれません。もちろん、詳細を殿に相談し、了解が得られた場合の話ですが」
白い息を吐きながら、義久の側近は表情ひとつ変えずに淡々とそう語った。
見学ではなく監視であろう。
こちらが大掛かりな工事に取り掛かることに対し、それに紛れて軍事的な行動に出ないか疑っているのだろう。
「我々はなにも致しません。殿はただ、領民の生活と安全のために堤防を築こうとされているだけです」
「それは十分心得ております」
さらに俺は殿様の御ため、
「先日の先鋒のことやこの工事のことなど、あなたは本来ならば殿に伝えるべきことを殿に伝えず、私に伝えます。これは殿を殿と見なしていないように思われるのです」
と、近頃思っていた覚兼の無礼な行いを指摘した。
すると、
「私は、当家の傘下であるあなた方が、私の殿を殿と見なしていないと考えているのです」
覚兼は真顔でこう言った。
これが覚兼の本音だった。
覚兼はやはり、相良と加藤の繋がりに勘付いていた。
廊下で雨空を見上げながら、覚兼は「雨が降ると川が心配になりますな」と呟いたあと、俺に向かって
「そう言えば川の堤防工事についての書類がありましたが、あれはいつ取り掛かる予定ですか」
と訊ねた。
「確定ではありませんが、春先には着工するつもりです」
覚兼は「そうですか」と頷いた。
「もしかすると、その際には我々も見学させていただくかもしれません。もちろん、詳細を殿に相談し、了解が得られた場合の話ですが」
白い息を吐きながら、義久の側近は表情ひとつ変えずに淡々とそう語った。
見学ではなく監視であろう。
こちらが大掛かりな工事に取り掛かることに対し、それに紛れて軍事的な行動に出ないか疑っているのだろう。
「我々はなにも致しません。殿はただ、領民の生活と安全のために堤防を築こうとされているだけです」
「それは十分心得ております」
さらに俺は殿様の御ため、
「先日の先鋒のことやこの工事のことなど、あなたは本来ならば殿に伝えるべきことを殿に伝えず、私に伝えます。これは殿を殿と見なしていないように思われるのです」
と、近頃思っていた覚兼の無礼な行いを指摘した。
すると、
「私は、当家の傘下であるあなた方が、私の殿を殿と見なしていないと考えているのです」
覚兼は真顔でこう言った。
これが覚兼の本音だった。
覚兼はやはり、相良と加藤の繋がりに勘付いていた。
PR
COMMENT