休日の今日の雪は大したことなく、午後には溶けて消えていた。
俺はしばし、ある人に出す手紙の内容にあぐんでいたが、ついに筆を取った。
もちろん、上井覚兼宛てである。
無事に薩摩に帰着したことを願うことから始まり、もし北から危うい情報が入ってきた場合、すぐにそちらにお伝えすると忠を誓っておいた。
白々しいと思われるだろうが、ここで開き直って勝手に戦を始めても、連絡を受けた清正が来るまでに全滅は必至である。
なんと思われようが、大人しく臣従する姿勢を見せたほうが触りは無い。
予め文面は熟考してあったので、覚兼宛ての手紙には時間も掛からず仕上がった。
それを丁寧に折ってから、もう1枚の紙を机の上に置いた。
次は相良長誠様宛てである。
長誠様には覚兼の旅の行き先が伏せられている可能性が無きにしも非ずであるから、せめて状況を知り、もしものときに覚悟していただくためだ。
あの方は聡い。
近況としてこちらに上井覚兼が来たことを告げれば、その背景になにが起こっているか即座に判断できるだろう。
「うん、これでいいよ」
殿に文面を見せて内容について伺うと、殿は頷いた。
「機会は作るより、待つほうがいい」
殿様の御ため、俺は町に下り、飛脚に2通の手紙を託した。
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