今朝は係の者が起こしに来るまで寝ようと思っていたのだが、障子の隙間から吹き込む風の冷たさのために夜明け頃に目が覚めた。
尋常ではない冷たさだったので、もしやと俺は上着を羽織り、障子を開けた。
大雪だった。
すでに城の者が外に出、雪かきをしていた。
元日にも雪が積もっていたが、今日の雪はあれとは比べ物にならない、脛が埋まるほどの深さだった。
寒いので寝直すことはできないだろうと考えた俺は、着物を着替え、階段を下りた。
雪かきをしている者は5人で、ろくな防寒もせずに、一所懸命に雪を除けて通路を作っていた。
「お早うございます」
俺の姿に気が付いた1人が挨拶すると、残りの4人も口々に「お早うございます」と頭を下げた。
冷たい雪を素手で扱っているので、皆手が指先まで赤い。
俺は「ご苦労」と言って台所に向かった。
「火はもう入っているのか」
台所を覗き込んでそう訊ねると、「入っています」との返事が返ってきた。
俺は、湯を沸かして茶を5杯分淹れて欲しいと頼んだ。
「5杯分ですね、少々お待ちください」
その者は薬缶を火にかけ、朝食に使う葱を刻みながら俺の雑談の相手になった。
どうやら、彼らの料理が薩摩から来た覚兼の口に合ったかどうかが気になっていたようである。
豆腐の味噌漬けが特にお気に召した様子だった、と言うと、
「実はあれは五木から来た新入りの実家の味なのですが、薩摩のお偉い方にそのように思って頂けたと伝えたら、飛び上がって喜ぶでしょうね」
と、彼自身もたいへん嬉しそうだった。
湯呑みを5つ載せた盆を持って、俺は再び雪かきをしている5人のところに戻った。
「皆が登城して来るまで、まだ時間はある。熱い茶で休憩しないか」
俺は彼らが茶を飲む様子を眺めながら、頼氏殿に言われた言葉をまた思い出していた。
「大量の仕事に忙しなく対応しているときや、困難な仕事にぶつかったときは、自分ひとりが仕事をしているのではないと思うと良い。そうすれば随分気持ちが楽になる」。
仕事の内容は違えど、皆それぞれが己の職務に全力を尽くしている。
その様を見て、今後の仕事に対する活力を得ることができた。
その後、適当な時刻になったので殿の部屋に朝の挨拶に行ってみると、殿はまだ布団にくるまっていた。
しかもまだ寝ていた。
俺は布団を剥いで起こそうとしたが、殿様の御ため、
「早く起きなければ朝食の味噌汁が冷めてしまいますよ」
と言うと、殿は目を開けて起き上がった。
寝癖が酷かった。