所用で城下に出掛けたところ、昼になったので知り合いが経営している料理屋に入った。
主人と新年の挨拶を交わし、案内された調理台の前の席に座った。
「上客さんがいらしたよ、お茶を出して差し上げなさい」
主人が奥に向かってそう言うと、「はい」と返事して彼の娘が盆を持って出てきた。
久し振りに顔を見たが、以前より随分大人らしい顔つきになっていた。
「ご注文はなにになさいますか」
俺があんまりじろじろと見たからか、娘は気恥ずかしそうだった。
献立表に書いてある日替わり定食を指して「これを頼む」と注文した。
久しく会ったので、主人には積もる話があったようだ。
最近の商売のこと、仲間から聞いためでたい話など、話題は尽きなかった。
その話の最中に、娘が突き出しとして「わさび蓮根」というものを出した。
「からしの代わりにわさびを詰めたものです」
美味しいですよ、と娘は言った。
聞いたところによると、近頃、巷では「わさび蓮根」なるものが流行しているらしい。
俺はまず一口食ってみた。
「…辛いことに変わりはない」
そう呟いて茶で流し込むと、娘は「犬童さんらしいご意見ですね」と笑った。
笑った顔も、大人っぽい品のある表情だった。
とても殿と同い年であるとは思えなかった。
帰り際、殿様の御ためにわさび蓮根を持って帰りたいので、売っている店を教えて欲しいと言うと、店にあるもので良ければ分けようとまで言ってくれた。
しかし、それでは申し訳ないので、せめて金を置いていくことで話がついた。
さっそく夕食時に殿にわさび蓮根を出すと、
「わさびでも美味しいね。酒に合いそうだ」
と喜んで食べていた。
果たして辛くないのだろうか、表情ひとつ変えずに噛り付いていた。
殿は今も、子供のような笑顔だった。
主人と新年の挨拶を交わし、案内された調理台の前の席に座った。
「上客さんがいらしたよ、お茶を出して差し上げなさい」
主人が奥に向かってそう言うと、「はい」と返事して彼の娘が盆を持って出てきた。
久し振りに顔を見たが、以前より随分大人らしい顔つきになっていた。
「ご注文はなにになさいますか」
俺があんまりじろじろと見たからか、娘は気恥ずかしそうだった。
献立表に書いてある日替わり定食を指して「これを頼む」と注文した。
久しく会ったので、主人には積もる話があったようだ。
最近の商売のこと、仲間から聞いためでたい話など、話題は尽きなかった。
その話の最中に、娘が突き出しとして「わさび蓮根」というものを出した。
「からしの代わりにわさびを詰めたものです」
美味しいですよ、と娘は言った。
聞いたところによると、近頃、巷では「わさび蓮根」なるものが流行しているらしい。
俺はまず一口食ってみた。
「…辛いことに変わりはない」
そう呟いて茶で流し込むと、娘は「犬童さんらしいご意見ですね」と笑った。
笑った顔も、大人っぽい品のある表情だった。
とても殿と同い年であるとは思えなかった。
帰り際、殿様の御ためにわさび蓮根を持って帰りたいので、売っている店を教えて欲しいと言うと、店にあるもので良ければ分けようとまで言ってくれた。
しかし、それでは申し訳ないので、せめて金を置いていくことで話がついた。
さっそく夕食時に殿にわさび蓮根を出すと、
「わさびでも美味しいね。酒に合いそうだ」
と喜んで食べていた。
果たして辛くないのだろうか、表情ひとつ変えずに噛り付いていた。
殿は今も、子供のような笑顔だった。
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