昨日が仕事納めの日だったので、今日から里帰りのために城を発つ者を城門付近に度々見た。
昨日の今日で出発する者は、大抵遠方の五木などから住み込みで勤めに来た若者たちである。
風呂敷包みを背負い、軽い足取りで城を下りていっていた。
「よりあにはいつ帰るの?」
殿はキジ馬にみかんを与えながら訊ねた。
「30日か大晦日を予定しております」と答えると、
「そんなに遅くまでここにいていいの?」
早く帰ったほうがお父さんも喜ぶんじゃない?と、こちらを振り向いて言った。
俺は首を振り、
「できるだけここに残り、殿が御節料理を摘み食いしないように見張らねばなりませんので」
これがほんとうの今年最後の仕事です、と言った。
すると殿は笑い、
「僕がやりそうなことはお見通しなんだね」
「参った」とでも言いたげな顔で、キジ馬にみかんの最後の房を食べさせた。
甘くて美味いのか、キジ馬が「きゅ~」と機嫌のいい鳴き声を上げていた。
「しかし私のことは気にせず、母君とゆっくりお過ごしください」
殿と殿の生母は、同じ敷地内に住んでいると言っても会うことは滅多に無い。
せめて年末年始くらいは、親子水入らずで過ごすのが良かろう。
そう言うと、殿は少し表情を曇らせた。
「母さんといるとなぁ…」
俺はなにも言わずに次の言葉を待った。
「いつの間にか昆布巻きを全部食べられるんだよね…」
俺は思わず吹き出した。
さすが親子、さすが殿の親である。
「ですが、それもまた楽しい正月なのですね」
殿は柔らかく微笑みながら頷き、
「そうだね、また母さんと年を越せるのが凄く嬉しいよ」
と穏やかに言った。
俺は殿様の御ため、
「台所に、昆布巻きを多めに作るよう言っておきます」
と告げて席を立った。
殿は「昆布だけの段があってもいいかもしれないね」と大笑いしていた。
昨日の今日で出発する者は、大抵遠方の五木などから住み込みで勤めに来た若者たちである。
風呂敷包みを背負い、軽い足取りで城を下りていっていた。
「よりあにはいつ帰るの?」
殿はキジ馬にみかんを与えながら訊ねた。
「30日か大晦日を予定しております」と答えると、
「そんなに遅くまでここにいていいの?」
早く帰ったほうがお父さんも喜ぶんじゃない?と、こちらを振り向いて言った。
俺は首を振り、
「できるだけここに残り、殿が御節料理を摘み食いしないように見張らねばなりませんので」
これがほんとうの今年最後の仕事です、と言った。
すると殿は笑い、
「僕がやりそうなことはお見通しなんだね」
「参った」とでも言いたげな顔で、キジ馬にみかんの最後の房を食べさせた。
甘くて美味いのか、キジ馬が「きゅ~」と機嫌のいい鳴き声を上げていた。
「しかし私のことは気にせず、母君とゆっくりお過ごしください」
殿と殿の生母は、同じ敷地内に住んでいると言っても会うことは滅多に無い。
せめて年末年始くらいは、親子水入らずで過ごすのが良かろう。
そう言うと、殿は少し表情を曇らせた。
「母さんといるとなぁ…」
俺はなにも言わずに次の言葉を待った。
「いつの間にか昆布巻きを全部食べられるんだよね…」
俺は思わず吹き出した。
さすが親子、さすが殿の親である。
「ですが、それもまた楽しい正月なのですね」
殿は柔らかく微笑みながら頷き、
「そうだね、また母さんと年を越せるのが凄く嬉しいよ」
と穏やかに言った。
俺は殿様の御ため、
「台所に、昆布巻きを多めに作るよう言っておきます」
と告げて席を立った。
殿は「昆布だけの段があってもいいかもしれないね」と大笑いしていた。
PR
COMMENT