虫が鳴いていた。
「虫の鳴き声が聞こえますな」
殿は相良氏法度第2巻を読み、俺は監視を兼ねてその横で、筆を走らせていた。
「風流だね」
殿は本から目を逸らさずにそう言った。
「真夏の午後に腹の虫が鳴くことの、どこが風流ですか」
「だって腹が減ったんだもん…」
「百歩譲って『だって』と『だもん』に突っ込みを入れるのはやめますが。もう少し経ったら夕餉ですから、我慢してくださいますね?」
暗に『我慢しろ』と言ってみたが、この殿には無駄だった。
10分後、俺は台所に行って握り飯(梅干し入り)を作らせていた。
「どうぞ」
殿に握り飯を差し出すと、殿は「ありがとう」と言って嬉しそうに食べ始めた。
俺は元の席に座って、その様子をなかばあきれ気味に眺めた。
とうもろこしを食ったり、握り飯を食ったり。
いったい殿は、どれだけ食べれば気が済むのか。
けれども、夏ばてされるよりは幾分かましだろう。
今度は眠たくなってきたらしい殿様の御ため、俺は廊下の柱で鳴いていた蝉を取ってきて、部屋の中で鳴かせた。
効果はあったが、俺には弊害があった。
「虫の鳴き声が聞こえますな」
殿は相良氏法度第2巻を読み、俺は監視を兼ねてその横で、筆を走らせていた。
「風流だね」
殿は本から目を逸らさずにそう言った。
「真夏の午後に腹の虫が鳴くことの、どこが風流ですか」
「だって腹が減ったんだもん…」
「百歩譲って『だって』と『だもん』に突っ込みを入れるのはやめますが。もう少し経ったら夕餉ですから、我慢してくださいますね?」
暗に『我慢しろ』と言ってみたが、この殿には無駄だった。
10分後、俺は台所に行って握り飯(梅干し入り)を作らせていた。
「どうぞ」
殿に握り飯を差し出すと、殿は「ありがとう」と言って嬉しそうに食べ始めた。
俺は元の席に座って、その様子をなかばあきれ気味に眺めた。
とうもろこしを食ったり、握り飯を食ったり。
いったい殿は、どれだけ食べれば気が済むのか。
けれども、夏ばてされるよりは幾分かましだろう。
今度は眠たくなってきたらしい殿様の御ため、俺は廊下の柱で鳴いていた蝉を取ってきて、部屋の中で鳴かせた。
効果はあったが、俺には弊害があった。
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