今日は日曜日、休日だった。
城下で用事を済ませ、帰って城内の廊下を歩いていると、深水頼蔵に出くわした。
「これは頼兄殿。青色の襟巻きで、とても涼しげですね」
「お前の嫌味のおかげで、かえって冷静になれてより涼しいな」
おそらく、最も涼しかったのは周囲にたまたまいた奴らだろう。
「左様ですか。せいぜいよく冷静になって、身の引きどころを知ってください」
「『寄せては沈む 月の浦波』」
俺はそう言って、頼蔵の横を通り抜けた。
『寄せては沈む…』は、頼蔵の父親、頼安が詠んだ句で、この部分には『なんど来ても無駄だ』という意味がある。
俺と深水頼蔵は、とにかく仲が悪い。
互いに、相手が失脚するのを待ち望んでいる仲だ。
ところで。
廊下のつきあたりで殿がとうもろこしを食べているのを見たとき、思わず脱力したのは否めない。
一国の主が廊下でとうもろこし、は良くないと思った俺は、殿様の御ために、
「殿」
と声を掛けた。
すると殿は振り返って、
「食べる?」
と、とうもろこしを差し出してきた。
この殿を見ていると、俺と頼蔵の対立抗争など、なんだかどうでもいいものに思えてくる。
これも殿の『求麻郡内安全』を狙う願う策なのだろうか。
殿の横でとうもろこしをかじりながら、俺はそんなことを考えていた。
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