昼下がり、殿と刀の手入れをしていると、殿が
「おととい、義弘さんと話したの?」
と訊いてきた。
俺は、言葉は交わしたが話は成立していなかったと答えた。
殿はそれを聞いてくすっと笑った。
「あの人は面白いし、いい人だ」
「いい人ですか?」
「僕があっちに行っているとき、いつも構ってくれたし、いろんなことを教えてくれたよ」
妙なことを吹き込まれたのだろうか。
「でも、義久さんが当主でよかった」
殿は、磨き上げた刀身に光を反射させて、磨き具合を確かめながらそう言った。
どういうことか分からず、俺は殿に詳しく言うよう求めた。
「あの人とは思い出が薄いから、なにかがあっても遠慮せずに攻められるからだよ」
途端に陽がかげり、薄暗い部屋のなかで殿が笑っていた。
俺はこういう殿が好きだ。
いつもはぼんやりとしていて口数が少ないのに、突然したたかなことをもらす。
「その際は、私もお供いたしましょう」
殿様の御ためであれば、俺はこの刀が折れるまで働き続ける。
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