幼い頃の殿は、なにもない部屋の隅を見つめていたり、誰もいないにも関わらず嬉しそうに笑うことがしばしばあった。
殿の兄と弟にはそのようなことはなかった。
そこで、あまりに頻繁にそれが起こっていたとき、俺は殿になにが見えているのか訊ねたことがある。
「僕のお祖父さんのお祖父さんの、もっと前の人だよ」
本人がそう教えてくれたと言う。
俺は「そうですか」と頷きながらもあまり信じていなかったが、10年以上経った今でも殿はふとなにもない場所に気を取られたりするので、あれはほんとうであったと今更ながら驚くばかりである。
今日も、廊下を歩いているとき、殿が庭の一角を突然気にし始めた。
俺はまたなにかがいるのかと思ったが、殿の視線の先にあったのは野生のキジ馬であった。
俺は殿様の御ため、
「浮気は不義にあたりますよ」
と言っておいた。
いつからそこにいたのか、柱の陰から、殿のキジ馬がじっとこちらを見ていたその目が印象的であった。
殿の兄と弟にはそのようなことはなかった。
そこで、あまりに頻繁にそれが起こっていたとき、俺は殿になにが見えているのか訊ねたことがある。
「僕のお祖父さんのお祖父さんの、もっと前の人だよ」
本人がそう教えてくれたと言う。
俺は「そうですか」と頷きながらもあまり信じていなかったが、10年以上経った今でも殿はふとなにもない場所に気を取られたりするので、あれはほんとうであったと今更ながら驚くばかりである。
今日も、廊下を歩いているとき、殿が庭の一角を突然気にし始めた。
俺はまたなにかがいるのかと思ったが、殿の視線の先にあったのは野生のキジ馬であった。
俺は殿様の御ため、
「浮気は不義にあたりますよ」
と言っておいた。
いつからそこにいたのか、柱の陰から、殿のキジ馬がじっとこちらを見ていたその目が印象的であった。
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