襟巻きをまとめて洗濯に出そうと思っていたのだが、生憎の雨のために明日に延期した。
今年は目立った嵐は来なかったが、例年に比べてよく雨の降る秋になった。
さて。
城の裏の山を少し入ったところに、椎茸を植えたほたぎが並べられている。
かつて大友宗麟についていた頃、記念として贈られたものだ。
豊後は椎茸が名産のくにであるから、これでもかと言うほどほたぎを送り付けられ、その置き場所に皆で困ったものだ、と父が話していたのを覚えている。
結局大友家とは手を切り、相良家は島津側についたのであるが、ほたぎはそのまま残された。
先代である殿の兄が、「いざというときの非常食になるであろう」と言って保存を命じたのである。
午後、雨が止んだ頃を見計らって、俺は裏山に入った。
目的はほたぎである。
そう急ではない斜面を登っていくと、肌寒いしっとりとした空気の中に、湿って木の色が濃くなったほたぎが並んでいた。
時折誰かが手入れにやって来るのであろう。
ほたぎに絡もうとするつるなどを刈り取った形跡があった。
深く考え過ぎなのだろうか、俺にはただの椎茸には思えなかった。
北の勢力が盛れば北につき、南の勢力がそうなれば南につく。
ほたぎは、相良家の動態の片鱗を表しているように思われてならなかったのである。
観察すると、この秋も順調に生え始めていた。
それとは裏腹に、贈り主のくにが堕ちつつあろうと、相良家にはなんら関係の無いことだ。
政治とは非情なもの。
せっかく贈った記念品も、自身の没落を他人に自ら物語るような無様な残骸にしかならない。
俺は城に戻り、味噌汁好きな殿様の御ため、ほたぎのことを話した。
「じゃあ、収穫が楽しみだね。またいい出汁を出してくれたらいいなぁ」
大友家の出汁で相良を養う。
うまく表せないが、俺には非情に面白おかしく聞こえた。