夕方、殿が部屋に居ないことに気がついた。
常日頃から、殿には「城中であっても、どこかに行くときは必ず自分に一言言うように」と伝えてある。
それにも関わらず、殿は俺になにも告げずに部屋を空にしてしまっていた。
この時世である。
いつどこに間者が潜んでいるとも知れない。
俺は、殿が城中で普段よく顔を出す場所をくまなく探した。
が、どこにも居なかった。
ふと空を見上げると、夕立でも降り出しそうな雲行きであった。
もしかすると外に出たのかもしれないと思い、俺は本丸から二ノ丸、三ノ丸と徐々に下りながら殿の姿を探した。
いつの間にか、大粒の雨が地面を激しく打ち始めていた。
殿にもしものことがあれば、俺が腹を切って済むような問題ではない。
雨の中、草をかきわけて殿を探した。
すると、どこからか『きゅ~』という鳴き声と人の話し声が聞こえてきた。
俺はその方へ急いだ。
一本の木の下で、殿と殿のキジ馬が雨宿りをしていた。
体を震わせて水気を飛ばしていたキジ馬が先に俺の気配を感じ取り、それにつられて殿が俺に気がつくと、殿は「あ…」と目を丸くした。
俺は安堵したわけでもなく、かと言って怒る気にもならず、ただ漠然と「見つかった」と思った。
木の下に入ると、殿は自分が探されていたということを察したらしく、
「ごめん…」
と呟いた。
「ごめん、で済まされる話ではありませんよ」
殿は「キジ馬の散歩くらいならいいと思ったんだ」と言った。
思わず溜め息が出た。
この年になっても、自分の立場を理解していない殿にあきれた。
しかし、あまりくどくどしく説教するよりも、殿様の御ためには、こう言うほうが適切に思われた。
「まぁ、済んだことです。雨が上がったら、一緒に帰りましょう」
殿は、しばらく間を置いて「うん」と頷いた。
俺は、時折淋しげな表情を見せる殿には、「なにがあっても必ず誰かが傍にいる」という安心感を与えるべきだと思うのだ。
常日頃から、殿には「城中であっても、どこかに行くときは必ず自分に一言言うように」と伝えてある。
それにも関わらず、殿は俺になにも告げずに部屋を空にしてしまっていた。
この時世である。
いつどこに間者が潜んでいるとも知れない。
俺は、殿が城中で普段よく顔を出す場所をくまなく探した。
が、どこにも居なかった。
ふと空を見上げると、夕立でも降り出しそうな雲行きであった。
もしかすると外に出たのかもしれないと思い、俺は本丸から二ノ丸、三ノ丸と徐々に下りながら殿の姿を探した。
いつの間にか、大粒の雨が地面を激しく打ち始めていた。
殿にもしものことがあれば、俺が腹を切って済むような問題ではない。
雨の中、草をかきわけて殿を探した。
すると、どこからか『きゅ~』という鳴き声と人の話し声が聞こえてきた。
俺はその方へ急いだ。
一本の木の下で、殿と殿のキジ馬が雨宿りをしていた。
体を震わせて水気を飛ばしていたキジ馬が先に俺の気配を感じ取り、それにつられて殿が俺に気がつくと、殿は「あ…」と目を丸くした。
俺は安堵したわけでもなく、かと言って怒る気にもならず、ただ漠然と「見つかった」と思った。
木の下に入ると、殿は自分が探されていたということを察したらしく、
「ごめん…」
と呟いた。
「ごめん、で済まされる話ではありませんよ」
殿は「キジ馬の散歩くらいならいいと思ったんだ」と言った。
思わず溜め息が出た。
この年になっても、自分の立場を理解していない殿にあきれた。
しかし、あまりくどくどしく説教するよりも、殿様の御ためには、こう言うほうが適切に思われた。
「まぁ、済んだことです。雨が上がったら、一緒に帰りましょう」
殿は、しばらく間を置いて「うん」と頷いた。
俺は、時折淋しげな表情を見せる殿には、「なにがあっても必ず誰かが傍にいる」という安心感を与えるべきだと思うのだ。
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