午後、自室で刀の手入れをしていると、深水頼蔵がやってきた。
報告書の数値について知りたいことがあるので、それに関する資料を見せて欲しい、とのことだった。
頼蔵は、戦が始まると軍師になるが、終わると会計係になる。
今回も、俺の先月分の支出について調べに来たようであった。
「あなたは本当に毎月貯め込みますね。なにか企んでいるのですか」
頼蔵は資料を見てそう言った。
「もし企んでいるのなら、その数字くらい改ざんするがな」
頼蔵は「際どい発言ですね」と言いながら、そろばんを弾き始めた。
しばらくの間、互いに無言でそろばんの音だけが聞こえていた。
俺は再び刀の手入れをしていたが、後ろで頼蔵が「それでは失礼します」と言ったので、「あぁ」とだけ返事した。
すると、障子を閉める際に、
「頼兄殿、ひとつ面白いことを教えてあげましょう」
と振り向いて奴が言った。
「あなたの出費と、殿のキジ馬のひと月の食費がまったく同額でした」
どこが気に障ったのかはわからないが、とにかく頼蔵の笑顔に腹が立ったのは確かだった。
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