午後、部屋でひとり仕事をしていると、背後から聞き覚えの有る鳴き声が聞こえてきた。
殿のキジ馬だ。
また遊んで欲しがっているのかと思ったが、俺の着物の袖を引っ張って、どこかに連れて行きたがっているようであった。
殿になにかあったのかと訊くと、首…頭を振ったので、他事であることはわかった。
なにしろ殿のキジ馬であるので、ないがしろにはできない。
俺はキジ馬に先導されて行き、すると縁側に座り込んでいる見覚えの有る姿があった。
深水頼蔵であった。
書類の束を抱えたまま、この世の終わりのようにうつむいていた。
俺が近付くと、頼蔵は顔を上げてじっと俺を見つめた。
あまりに刺激が強すぎて、俺は若干眩暈がした。
が、頼蔵は、
「青い…」
と呟いて、「頼兄殿か?」と訊いてきた。
俺が毎日青い着物しか着ていないからと言って、俺を色で認識するな。
どうせ声でわかるだろうから、俺は頼蔵の質問には答えず、「なにをしている」と言った。
頼蔵は「いや…」と言いにくそうに顔を伏せた。
そのとき、キジ馬が地面を指して鳴き始めたので、その方向を見ると頼蔵の眼鏡が落ちていた。
俺はすべてに合点が行った。
どうやら、頼蔵がとある拍子に眼鏡を落として窮しているところをキジ馬が通り掛かり、しかしキジ馬にも助ける手立てが無かったので、俺を呼びに来たようだった。
俺は下におりて眼鏡を拾い、頼蔵の膝の上に置いてやった。
「かたじけない」
と頼蔵は眼鏡を掛けながら呟いた。
俺は、御家中一の近目男に「気をつけろ」とだけ言った。
ふと上に目をやると、階上の柵から身を乗り出し、和やかな表情で俺と頼蔵を見ている殿がいた。
どこか気恥ずかしい思いがしたが、とりあえず殿が危ないので、殿様の御ため、俺はキジ馬を抱えて階段に急いだ。
殿のキジ馬だ。
また遊んで欲しがっているのかと思ったが、俺の着物の袖を引っ張って、どこかに連れて行きたがっているようであった。
殿になにかあったのかと訊くと、首…頭を振ったので、他事であることはわかった。
なにしろ殿のキジ馬であるので、ないがしろにはできない。
俺はキジ馬に先導されて行き、すると縁側に座り込んでいる見覚えの有る姿があった。
深水頼蔵であった。
書類の束を抱えたまま、この世の終わりのようにうつむいていた。
俺が近付くと、頼蔵は顔を上げてじっと俺を見つめた。
あまりに刺激が強すぎて、俺は若干眩暈がした。
が、頼蔵は、
「青い…」
と呟いて、「頼兄殿か?」と訊いてきた。
俺が毎日青い着物しか着ていないからと言って、俺を色で認識するな。
どうせ声でわかるだろうから、俺は頼蔵の質問には答えず、「なにをしている」と言った。
頼蔵は「いや…」と言いにくそうに顔を伏せた。
そのとき、キジ馬が地面を指して鳴き始めたので、その方向を見ると頼蔵の眼鏡が落ちていた。
俺はすべてに合点が行った。
どうやら、頼蔵がとある拍子に眼鏡を落として窮しているところをキジ馬が通り掛かり、しかしキジ馬にも助ける手立てが無かったので、俺を呼びに来たようだった。
俺は下におりて眼鏡を拾い、頼蔵の膝の上に置いてやった。
「かたじけない」
と頼蔵は眼鏡を掛けながら呟いた。
俺は、御家中一の近目男に「気をつけろ」とだけ言った。
ふと上に目をやると、階上の柵から身を乗り出し、和やかな表情で俺と頼蔵を見ている殿がいた。
どこか気恥ずかしい思いがしたが、とりあえず殿が危ないので、殿様の御ため、俺はキジ馬を抱えて階段に急いだ。
PR
COMMENT