山を下りていると、農具を脇に置いて座り込んでいる老人が見えた。
年が年だけに気になり、声を掛けたところ、草履の鼻緒が切れてしまったということだった。
齢のために目が悪く、うまく直せずにいたらしい。
「お武家様にこのようなことをして頂くわけには」
と、老人は渋っていたが、しつこく要求するとついに草履を寄越した。
鼻緒を直しながらふと彼に目をやると、袖から酷い槍傷の跡が覗いていた。
彼は俺の視線に気が付いたらしく、
「水俣の戦に参加したときの傷です」
と、さして気にしていないという風に説明した。
水俣の城では父が守将を務め、呼ばれていなかったが、俺も戦に赴いた。
どうやら、その傷のために腕の具合が悪くなり、畑を耕し続ける生活になったようだった。
足軽は、いくら良い働きをしても感状は貰えない。
家格も上がらなければ、石高が上がりより良い生活を営めるようになることもない。
ただ一時の利を得られるのみ、運悪ければ老人のように一生の不自由を強いられる。
「お殿様のために働けた、よい記念です」
農民の老人は、傷についてそう言っていた。
草履が直ると、老人は農作業用の籠から玉葱を取り出し、礼にと俺に手渡した。
籠と農具を背負って山を下りていく後ろ姿を眺め、しばらくそこに留まった。
かつて半農の足軽だった者が、あれほどの言葉を平然と口に出せるのである。
俺が目指す殿様の御ためとは、陰から役に立つ種のものばかりでなく、直接殿のためになり、お家を押し上げるようでなければならない、と再度認識させられた。
そうでなければ、彼のような者たち、足軽たちの上に立つ道理など無い。
年が年だけに気になり、声を掛けたところ、草履の鼻緒が切れてしまったということだった。
齢のために目が悪く、うまく直せずにいたらしい。
「お武家様にこのようなことをして頂くわけには」
と、老人は渋っていたが、しつこく要求するとついに草履を寄越した。
鼻緒を直しながらふと彼に目をやると、袖から酷い槍傷の跡が覗いていた。
彼は俺の視線に気が付いたらしく、
「水俣の戦に参加したときの傷です」
と、さして気にしていないという風に説明した。
水俣の城では父が守将を務め、呼ばれていなかったが、俺も戦に赴いた。
どうやら、その傷のために腕の具合が悪くなり、畑を耕し続ける生活になったようだった。
足軽は、いくら良い働きをしても感状は貰えない。
家格も上がらなければ、石高が上がりより良い生活を営めるようになることもない。
ただ一時の利を得られるのみ、運悪ければ老人のように一生の不自由を強いられる。
「お殿様のために働けた、よい記念です」
農民の老人は、傷についてそう言っていた。
草履が直ると、老人は農作業用の籠から玉葱を取り出し、礼にと俺に手渡した。
籠と農具を背負って山を下りていく後ろ姿を眺め、しばらくそこに留まった。
かつて半農の足軽だった者が、あれほどの言葉を平然と口に出せるのである。
俺が目指す殿様の御ためとは、陰から役に立つ種のものばかりでなく、直接殿のためになり、お家を押し上げるようでなければならない、と再度認識させられた。
そうでなければ、彼のような者たち、足軽たちの上に立つ道理など無い。
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