城の内部は昨日見学したので、今日は城から出て熊本の城下町を見て回った。
清正、殿、清正の家臣の飯田覚兵衛と俺の4人で城から出た。
馬に乗って移動していると、道脇の草むらからなにかが動く音が聞こえた。
その音に反応して振り向いた殿は、
「キジ馬だ」
と声を弾ませた。
「大人のオスでしたな」
飯田覚兵衛がそう言うと、殿は「どうして分かるのか」とでも言いたげな顔をした。
「こいつもキジ馬飼ってんだよ。なかなか詳しいぞ」
覚兵衛に代わり清正が付け加えた。
「話が合いそうだなぁ。今晩ゆっくりどう?」
殿の誘いに、覚兵衛は「喜んで」と答えていた。
川の傍にやって来ると、殿が清正に「あそこを見たいです」と言った。
川は堤防工事中だったのである。
工事の様子を間近に見られる場所に移動し、馬から下りると清正の説明があった。
「この辺りは、大雨が降るとすぐに川が氾濫を起こして田んぼを駄目にしやがるから、堤防工事を始めたんだ。これが完成すれば、稲の収穫が格段に良くなる」
さらに出来かけの堤防を指差し、
「それも、ただ土を高く盛るだけでは意味が無い。せり上がってきた水を押し返すように、撥ね出しを付けてやるとそう簡単には水が流れ出ないようになる」
と、独自の仕掛けを紹介した。
殿は清正の話を興味深そうに聞いていた。
現に、領国を流れる球磨川も、大雨が降ると度々洪水を起こし、町を水浸しにする。
殿はそれを清正に話した。
「なんとか解決したいんで、加藤さんのこの知恵を借りてもいいですか?」
知恵と言われて嬉しかったのか、清正は、
「ああ、構わないさ。それでお前のくにが良くなるならな」
と上機嫌だった。
俺は城に戻るとすぐに、殿様の御ため、清正から聞いた工法を書き留めておいた。
これを施工することで球磨川が暴れなくなれば、球磨の地はより豊かになるであろう。
清正、殿、清正の家臣の飯田覚兵衛と俺の4人で城から出た。
馬に乗って移動していると、道脇の草むらからなにかが動く音が聞こえた。
その音に反応して振り向いた殿は、
「キジ馬だ」
と声を弾ませた。
「大人のオスでしたな」
飯田覚兵衛がそう言うと、殿は「どうして分かるのか」とでも言いたげな顔をした。
「こいつもキジ馬飼ってんだよ。なかなか詳しいぞ」
覚兵衛に代わり清正が付け加えた。
「話が合いそうだなぁ。今晩ゆっくりどう?」
殿の誘いに、覚兵衛は「喜んで」と答えていた。
川の傍にやって来ると、殿が清正に「あそこを見たいです」と言った。
川は堤防工事中だったのである。
工事の様子を間近に見られる場所に移動し、馬から下りると清正の説明があった。
「この辺りは、大雨が降るとすぐに川が氾濫を起こして田んぼを駄目にしやがるから、堤防工事を始めたんだ。これが完成すれば、稲の収穫が格段に良くなる」
さらに出来かけの堤防を指差し、
「それも、ただ土を高く盛るだけでは意味が無い。せり上がってきた水を押し返すように、撥ね出しを付けてやるとそう簡単には水が流れ出ないようになる」
と、独自の仕掛けを紹介した。
殿は清正の話を興味深そうに聞いていた。
現に、領国を流れる球磨川も、大雨が降ると度々洪水を起こし、町を水浸しにする。
殿はそれを清正に話した。
「なんとか解決したいんで、加藤さんのこの知恵を借りてもいいですか?」
知恵と言われて嬉しかったのか、清正は、
「ああ、構わないさ。それでお前のくにが良くなるならな」
と上機嫌だった。
俺は城に戻るとすぐに、殿様の御ため、清正から聞いた工法を書き留めておいた。
これを施工することで球磨川が暴れなくなれば、球磨の地はより豊かになるであろう。
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そろそろ東の空が明るくなってきたかという頃、殿と俺は熊本城三の丸の門の前で馬に跨っていた。
初日と同様、異例なことに加藤清正自らが送りに来ていた。
「また機会ができたら、遊びに来い。気をつけて帰れよ」
清正は機嫌よく笑っていた。
「はい。またお会いしましょう」
殿はそう言って、「では」と馬を進めた。
俺もあとに従った。
街道沿いの村に宿を見つけた。
主人に部屋の空き具合を訊ねると、丁度あと1部屋空いていると言うので、そこに泊まることにした。
先に部屋に通してもらい、俺が宿の者と詳細を取り決めて戻って来ると、殿は障子を開け、すでに暗くなってしまった村の様子を眺めていた。
「よりあに、どうしてなんだろう」
俺が部屋に入るなり、殿は振り向いてこう言った。
「なにがですか」
俺も殿の横に腰を下ろした。
「どうして、加藤さんは僕にあんなに味方してくれるんだろう」
相良のために兵を出すよりか、いっそのこと球磨も加藤領にしたほうが手っ取り早いのではないか、と殿は言った。
「攻める場合にはそれがいいけど、攻められる場合に第一線になるのが嫌なのかな」
殿は首を捻った。
「実は殿の言う通りかもしれませんし、違うかもしれません」
俺は殿を見据えた。
「真意は分かりません。しかし、肩を持ってやるという人を信じなければ、疑いを持っていることが相手に伝わり、いつかは味方をも失うでしょう。相良のお家を守るためには、真意はどうであれ、力になってくれる人を認め、頼りに致しましょう」
殿様の御ため、俺は膝を正して申し上げた。
殿は「うん」と頷き、
「一番大事なものを忘れていたよ、ありがとう」
と微笑んだ。
初日と同様、異例なことに加藤清正自らが送りに来ていた。
「また機会ができたら、遊びに来い。気をつけて帰れよ」
清正は機嫌よく笑っていた。
「はい。またお会いしましょう」
殿はそう言って、「では」と馬を進めた。
俺もあとに従った。
街道沿いの村に宿を見つけた。
主人に部屋の空き具合を訊ねると、丁度あと1部屋空いていると言うので、そこに泊まることにした。
先に部屋に通してもらい、俺が宿の者と詳細を取り決めて戻って来ると、殿は障子を開け、すでに暗くなってしまった村の様子を眺めていた。
「よりあに、どうしてなんだろう」
俺が部屋に入るなり、殿は振り向いてこう言った。
「なにがですか」
俺も殿の横に腰を下ろした。
「どうして、加藤さんは僕にあんなに味方してくれるんだろう」
相良のために兵を出すよりか、いっそのこと球磨も加藤領にしたほうが手っ取り早いのではないか、と殿は言った。
「攻める場合にはそれがいいけど、攻められる場合に第一線になるのが嫌なのかな」
殿は首を捻った。
「実は殿の言う通りかもしれませんし、違うかもしれません」
俺は殿を見据えた。
「真意は分かりません。しかし、肩を持ってやるという人を信じなければ、疑いを持っていることが相手に伝わり、いつかは味方をも失うでしょう。相良のお家を守るためには、真意はどうであれ、力になってくれる人を認め、頼りに致しましょう」
殿様の御ため、俺は膝を正して申し上げた。
殿は「うん」と頷き、
「一番大事なものを忘れていたよ、ありがとう」
と微笑んだ。
熊本滞在最終日の今夜は、初日と同じく宴会が開かれた。
ただし、明日は早朝に出発するので、酒は少なめの小規模な宴会だった。
「結局、留守居からはなんの連絡も無かったんだな」
盃を傾けながら清正が言った。
留守居の深水頼蔵には、なにか不穏なことがあれば、即刻熊本へ使者を出すように言いつけてある。
「はい。なにもありませんでした」
殿がそう答えると、清正は「そうか」と頷いていた。
「お前らだけで手に負えないようなことがあったら、俺を頼れよ。すぐに行ってやるから」
ありがとうございます、と殿は頭を下げた。
「その代わりと言ってはなんだが」
清正は盃を置いた。
その言葉に、殿も俺も身構えた。
「小西の奴の弱みとか恥ずかしいところを知ったら、俺に教えろよ」
清正は小西が心底憎たらしい、という顔をつくった。
殿は拍子抜けしたようだが、すぐ笑顔になり、
「分かりました。でも、加藤さんの恥ずかしいところを小西さんに流してしまったので、あまり意味が無いかもしれませんが」
と、要らぬことを報告した。
殿が笑顔になったときに、目で殺さなかったのは失態だった。
慌てて清正は座を立って殿の元へ行き、「なにを言った?」と殿を揺さぶりながら詰問し始めた。
外見によらず、清正は神経質である。
こんな些細なことで、有事の際に期待できる大きな援軍をふいにするのは馬鹿馬鹿しい。
殿は答えるのを渋っていたが、殿様の御ため、
「殿。言わなければ、私が清正殿に殿の恥ずかしい話を致しますよ」
と言うと、殿はおとなしく白状を始めた。
今日はいよいよ、殿が待ちに待った熊本城見学の日であった。
もちろん俺も同行できた。
もしものときのために、この城の櫓の配置等を覚えておくことを念頭に置いて見学した。
朝から浮かれっ放しの殿は当てにしない。
人吉城とは違い、熊本城の石垣は表面がまったく平らになっている。
これだけでも登りにくいのだが、石垣の途中から角度がほぼ垂直になり、さらに反り返っている。
殿の好きな武者返しである。
「綺麗だな~」
石垣を見上げ、殿は感嘆の声を上げていた。
「試しに登ってみてもいいですか?」
返されることを分かっているのに登りたがる殿を、清正は面白そうに笑って、
「おう、登れるもんなら登ってみろ」
と促した。
案の定、途中までは順調に登られたが、中頃になると身動きできなくなった。
「どうだ、無理だろう」
清正は下から殿に向かって叫んだ。
「ほんとうに無理ですね」
無理と言っているのに、殿は嬉しそうだった。
さて、登ったは良いがどうやって下りるのだろう、と俺は考えた。
不可能であることを承知で登ったのであるから、なんらかの妙案があってこそだ。
あれほど威勢良く煽った清正も、そのときになってようやく顔色が変わった。
武者返しと言うだけに、敵を返して落とし、損害を与えるためのものである。
一旦手を掛けた以上、登りきるか落ちるかの2択でしかないのだ。
「お前、どうするんだ」
「え?」
次の瞬間に、殿は跳ねるように石垣から飛び降りた。
まるで放物線のように滑らかな曲線を描き、地面に降り立つ鳥のように軽やかに着地した。
「実際に効果を体験できて良かったです」
殿は、何事もなかったかのようにそう感想を述べた。
清正も俺も、きっと目が点になっていたことだろう。
殿様の御ため、俺は、
「満点ですね」
と言った。
「だよね、これだけ威力があるなら満点だよね」
殿は再び石垣を見上げてそう言った。
「石垣じゃなくて、お前がな」
清正は殿にきっちり突っ込みを入れていた。
もちろん俺も同行できた。
もしものときのために、この城の櫓の配置等を覚えておくことを念頭に置いて見学した。
朝から浮かれっ放しの殿は当てにしない。
人吉城とは違い、熊本城の石垣は表面がまったく平らになっている。
これだけでも登りにくいのだが、石垣の途中から角度がほぼ垂直になり、さらに反り返っている。
殿の好きな武者返しである。
「綺麗だな~」
石垣を見上げ、殿は感嘆の声を上げていた。
「試しに登ってみてもいいですか?」
返されることを分かっているのに登りたがる殿を、清正は面白そうに笑って、
「おう、登れるもんなら登ってみろ」
と促した。
案の定、途中までは順調に登られたが、中頃になると身動きできなくなった。
「どうだ、無理だろう」
清正は下から殿に向かって叫んだ。
「ほんとうに無理ですね」
無理と言っているのに、殿は嬉しそうだった。
さて、登ったは良いがどうやって下りるのだろう、と俺は考えた。
不可能であることを承知で登ったのであるから、なんらかの妙案があってこそだ。
あれほど威勢良く煽った清正も、そのときになってようやく顔色が変わった。
武者返しと言うだけに、敵を返して落とし、損害を与えるためのものである。
一旦手を掛けた以上、登りきるか落ちるかの2択でしかないのだ。
「お前、どうするんだ」
「え?」
次の瞬間に、殿は跳ねるように石垣から飛び降りた。
まるで放物線のように滑らかな曲線を描き、地面に降り立つ鳥のように軽やかに着地した。
「実際に効果を体験できて良かったです」
殿は、何事もなかったかのようにそう感想を述べた。
清正も俺も、きっと目が点になっていたことだろう。
殿様の御ため、俺は、
「満点ですね」
と言った。
「だよね、これだけ威力があるなら満点だよね」
殿は再び石垣を見上げてそう言った。
「石垣じゃなくて、お前がな」
清正は殿にきっちり突っ込みを入れていた。
まだ夜が明けきらない時刻に、俺と殿は城を出発した。
今日から2日半は移動のみの予定である。
途中で馬を替えながら、とにかく走り通す。
往復に約6日、熊本滞在は7日間の予定である。
1日目の今夜は、運良く見つけた宿屋に泊まった。
俺が宿の主人に部屋の具合を訊ねたとき、一国の殿様がいると聞いて、もう老齢の主人は危うく腰を抜かすところであった。
そこに勤める女中や下男たちも、殿様の遇し方とやらに困惑していた。
が、腹黒い愛想がよく、話し方も娘のようにやわらかい殿に会って、緊張はほぐれたようであった。
殿はいつも通り食事の前に風呂に入り、
「いい湯だったよ」
と上機嫌だった。
夕食まで時間があったので、俺は地図を取り出して今日の行程について説明し、明日の予定距離についても話した。
「結構走ったように思ったんだけど、意外に進んでいないものだね」
殿は地図をまじまじと眺めてそう言った。
「そう言えば、馬に飼い葉をやってないね」
「それでしたら、殿が風呂に入っているときにここの者に頼みました」
俺が報告すると、
「そうか、よかっ」
よかった、と言い切る前に、殿の腹の虫が盛大に鳴いた。
馬にえさを与えたあとは、殿にもえさを与えなければならない。
殿様の御ため、俺は女中を呼び、夕食の支度をするよう言いつけた。
追記。
山中で、忍び装束を着た者が俺の元に寄って来た。
着物からして忍者であろうが、まったく忍ぶ様子もない。
「こんにちは、忍者です」
その者は懐から1通の書状を出し、それを俺に手渡した。
「必ずお読みくださいね」
そう言い残して、「忍者」は歩いて森の中に消えて行った。
殿は、
「あれが忍者なんだ」
と、初めて忍者に会えたことに興奮していた。
俺がこれまで仕留めてきた忍者は、あのように現れるどころか気配すら消すことができていたが。
一応、俺は書状を開いて読んでみたが、その内容は殿にも俺にもなんのことやら分からなかった。
が、以後必要になるかもしれないので、ここに書き留めておく。
『NINJA TOOLSからのお知らせ』
忍者ブログ、サーバーメンテナンスのお知らせ
夜間帯の接続不良問題を解消するためのメンテナンス第二弾を下記の通り実施いたします。
作業時間帯は投稿・閲覧等すべての機能を停止させていただくことになりますので、何卒ご理解・ご了承くださいますようお願いいたします。
日時:2008年9月18日(木)
AM 1:00~AM 6:00 内容:サーバーの増設、データベースのバージョンアップ、メモリ増設 等
ブログサービスをご利用のみなさまには大変ご迷惑をおかけしますが、より快適な環境でご利用いただく土台を用意するための必要過程となりますので、何卒ご理解とご協力の程よろしくお願いいたします。
今日から2日半は移動のみの予定である。
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1日目の今夜は、運良く見つけた宿屋に泊まった。
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が、
殿はいつも通り食事の前に風呂に入り、
「いい湯だったよ」
と上機嫌だった。
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殿は地図をまじまじと眺めてそう言った。
「そう言えば、馬に飼い葉をやってないね」
「それでしたら、殿が風呂に入っているときにここの者に頼みました」
俺が報告すると、
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殿は、
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