昨日計画した通り、雉狩りに行ってきた。
幸い天気にも恵まれ、成果も雉3羽と十分過ぎるものだった。
雉を追う最中、何度も野生のキジ馬に遭遇したが、その度に殿は手なずけようと試みていた。
ある種のキジ馬狩りだったと言えるだろう。
夕方、獲った雉を担いで下山しながら、俺は「明日はくりすますの祭りの日ですね」とくりすますの話題を切り出した。
「以前は反対しましたが、撤回します」
俺がそう言うと、殿はこちらを振り向いた。
「やっていいの?」
俺は頷き、
「加藤清正が文句をつけて来たら、そのときは小西行長を頼ってみましょう。彼なら口では清正も勝てない」
実際、夏に熊本城に赴いた際、清正は行長の弱みを殿から聞き出そうとした。
そうでもしなければ敵わない相手なのだろう。
「そうかー…加藤さん、小西さんには槍では勝てても口では一度も勝ったことがないって言ってたなー」
そういうことは早く言え。
「珍しい異国異文化の行事を皆で楽しむことで、お家の中に一体感が生まれ、またそれが殿様の御ため、お家のためになるでしょう。そう考えました」
殿の背には夕日があったため顔はよく見えなかったが、殿は嬉しそうな弾んだ声で、
「帰ったらすぐに準備を始めよう」
と言って一目散に山を駆け下りていった。
俺は少しの間夕日を眺めていたが、野生のキジ馬が肩の上の雉を狙い始めたので、足早に下山した。
幸い天気にも恵まれ、成果も雉3羽と十分過ぎるものだった。
雉を追う最中、何度も野生のキジ馬に遭遇したが、その度に殿は手なずけようと試みていた。
ある種のキジ馬狩りだったと言えるだろう。
夕方、獲った雉を担いで下山しながら、俺は「明日はくりすますの祭りの日ですね」とくりすますの話題を切り出した。
「以前は反対しましたが、撤回します」
俺がそう言うと、殿はこちらを振り向いた。
「やっていいの?」
俺は頷き、
「加藤清正が文句をつけて来たら、そのときは小西行長を頼ってみましょう。彼なら口では清正も勝てない」
実際、夏に熊本城に赴いた際、清正は行長の弱みを殿から聞き出そうとした。
そうでもしなければ敵わない相手なのだろう。
「そうかー…加藤さん、小西さんには槍では勝てても口では一度も勝ったことがないって言ってたなー」
そういうことは早く言え。
「珍しい異国異文化の行事を皆で楽しむことで、お家の中に一体感が生まれ、またそれが殿様の御ため、お家のためになるでしょう。そう考えました」
殿の背には夕日があったため顔はよく見えなかったが、殿は嬉しそうな弾んだ声で、
「帰ったらすぐに準備を始めよう」
と言って一目散に山を駆け下りていった。
俺は少しの間夕日を眺めていたが、野生のキジ馬が肩の上の雉を狙い始めたので、足早に下山した。
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今日は風が強い日だった。
飛んでしまった洗濯物を追いかけて、洗濯の係の者が走り回っていた。
仕事納めの日が近づき、いよいよ今年も、年内に終わらせねばならない仕事の追い込みが始まった。
と言っても、今年は例年ほど慌ただしくなりそうにない。
そこで俺は、書類を区別ごとに紐で綴じながら、
「明日、雉でも狩りに行きませんか」
と殿を誘ってみた。
すると殿はまだ綴じていない書類の束を放り出し、突然襟巻きを引っ張って俺を引き寄せた。
「キジ馬を狩る?」
瞬きをすれば接触してしまいそうな距離で、殿の口元は笑っていたが、目は微塵も笑っていなかった。
キジ馬ではなく雉だと言うと、殿はいつも通りの愛想のいい笑顔に戻った。
「いいねー、雉なんて久し振りだねー。行こうよ」
ばらまいた書類を拾い集めながら、殿は「行こう 行こう」と繰り返した。
殿様の御ため、俺は「ではそのように準備しておきます」と答えつつも、唐突といえども殿の殺気に呑まれてしまったことを不覚に思った。
死ぬかと思った。
飛んでしまった洗濯物を追いかけて、洗濯の係の者が走り回っていた。
仕事納めの日が近づき、いよいよ今年も、年内に終わらせねばならない仕事の追い込みが始まった。
と言っても、今年は例年ほど慌ただしくなりそうにない。
そこで俺は、書類を区別ごとに紐で綴じながら、
「明日、雉でも狩りに行きませんか」
と殿を誘ってみた。
すると殿はまだ綴じていない書類の束を放り出し、突然襟巻きを引っ張って俺を引き寄せた。
「キジ馬を狩る?」
瞬きをすれば接触してしまいそうな距離で、殿の口元は笑っていたが、目は微塵も笑っていなかった。
キジ馬ではなく雉だと言うと、殿はいつも通りの愛想のいい笑顔に戻った。
「いいねー、雉なんて久し振りだねー。行こうよ」
ばらまいた書類を拾い集めながら、殿は「行こう 行こう」と繰り返した。
殿様の御ため、俺は「ではそのように準備しておきます」と答えつつも、唐突といえども殿の殺気に呑まれてしまったことを不覚に思った。
死ぬかと思った。
先週都合を訊いておいた、姉の嫁ぎ先の家に行ってきた。
と言っても、姉や当主に用事があったのではない。
昼過ぎに訪ねてから夕方城に戻るまで、あの家の子供たちの話を聞いていた。
やりたいことはそれだけだった。
城に戻ると、三の丸で殿のキジ馬と猫が睨み合いをしていたので、殿様の御ため、俺は両者を仲裁した。
それでもキジ馬はその場を離れようとせず、仕方なく無理矢理抱えて帰った。
納得がいかないキジ馬は抱えられたまま暴れていたが、殿のお叱りを受けるとしょげていた。
朝方まで呑んだ挙句、目が覚めたのは陽が西に傾き始めた頃だった。
やはり、普段呑まないだけに色々と災難に遭ったが、酔い潰れて周囲に迷惑を掛けるようなことは無かったそうなので安堵した。
殿は毎度の如くよく呑みよく食べ、機嫌よく家臣たちと騒いでいた。
そんな中、穏やかに酒を嗜んでいたのが岡本頼氏殿であった。
俺は頼氏殿の話を聞きたいと思い、隣の席に邪魔した。
頼氏殿は家臣団の中でも古参格であり、今でも槍においては右に出るものがいないほどの名手である。
俺を含め、多くの者が彼に槍を教わったことがある。
頼氏殿が仕事で忙しいため、日頃会うこともないが、俺が挨拶すると快く酌をしてくれた。
「この間風邪を引いたと聞いたけれども、もう大丈夫なのですか」
俺がすでに治りましたと答えると、
「体は大事にしなさいね。壊すとなにもできなくなりますから」
と、温厚な性格の頼氏殿は、話し方も穏やかにそう言った。
俺は酒や料理を楽しみながら、今の仕事のことや過去の合戦のことなど、様々なことを聞いた。
とくに話の中に俺や頼蔵の父が出てくると、より聞き応えが増した。
仕事の先輩でもあり、人生の先輩でもある頼氏殿から聞いた言葉には励まされ、また今後の殿様の御ために活かせることばかりであった。
大変有意義な忘年会になったことを嬉しく思う。
やはり、普段呑まないだけに色々と災難に遭ったが、酔い潰れて周囲に迷惑を掛けるようなことは無かったそうなので安堵した。
殿は毎度の如くよく呑みよく食べ、機嫌よく家臣たちと騒いでいた。
そんな中、穏やかに酒を嗜んでいたのが岡本頼氏殿であった。
俺は頼氏殿の話を聞きたいと思い、隣の席に邪魔した。
頼氏殿は家臣団の中でも古参格であり、今でも槍においては右に出るものがいないほどの名手である。
俺を含め、多くの者が彼に槍を教わったことがある。
頼氏殿が仕事で忙しいため、日頃会うこともないが、俺が挨拶すると快く酌をしてくれた。
「この間風邪を引いたと聞いたけれども、もう大丈夫なのですか」
俺がすでに治りましたと答えると、
「体は大事にしなさいね。壊すとなにもできなくなりますから」
と、温厚な性格の頼氏殿は、話し方も穏やかにそう言った。
俺は酒や料理を楽しみながら、今の仕事のことや過去の合戦のことなど、様々なことを聞いた。
とくに話の中に俺や頼蔵の父が出てくると、より聞き応えが増した。
仕事の先輩でもあり、人生の先輩でもある頼氏殿から聞いた言葉には励まされ、また今後の殿様の御ために活かせることばかりであった。
大変有意義な忘年会になったことを嬉しく思う。
今夜は忘年会である。
普段の飲み会では酒は舐める程度にしているが、1年の締め括りの飲み会である今回くらいは、皆と同じように呑んでみようかと思う。
翌日が特別に休みになったので、二日酔いを起こそうともどうなろうとも、気兼ねは不要だ。
酒好きな殿様の御ため、少しは酒の味がわかるようにならねばならない。
普段の飲み会では酒は舐める程度にしているが、1年の締め括りの飲み会である今回くらいは、皆と同じように呑んでみようかと思う。
翌日が特別に休みになったので、二日酔いを起こそうともどうなろうとも、気兼ねは不要だ。
酒好きな殿様の御ため、少しは酒の味がわかるようにならねばならない。