夕方だったか。
書類の整理をしていると、同じく家老の深水頼蔵が部屋にやってきた。
俺に客が来ていると言うから、応接間に向かおうとした。
すると頼蔵が、
「いえ、違います。門のほうへ行ってください」
と俺を止めた。
門?
怪訝に思いながらも、奴の言いなりになるなど不服だが俺は言われた通り門へ向かった。
そこにいたのは富山の薬売りだった。
「こちらの殿様にも富山のよく効く薬をお試しいただきたく思い、参りました」
門番と押し問答をしていた薬売りは、俺を見ると満面の笑顔を浮かべた。
斬りたい。
「殿に薬は必要ない。帰れ」
「しかし、いかほどに健康でいらっしゃる殿様にも、ひとつやふたつ、悪いところはおありでしょう」
なおも薬売りは食い下がった。
「確かに悪いところはある。だが、馬鹿につける薬は無い」
薬売りは帰っていった。
妙な人間から殿を守る。
これも、殿様の御ためだ。
今日もいい仕事をした。
書類の整理をしていると、同じく家老の深水頼蔵が部屋にやってきた。
俺に客が来ていると言うから、応接間に向かおうとした。
すると頼蔵が、
「いえ、違います。門のほうへ行ってください」
と俺を止めた。
門?
怪訝に思いながらも、
そこにいたのは富山の薬売りだった。
「こちらの殿様にも富山のよく効く薬をお試しいただきたく思い、参りました」
門番と押し問答をしていた薬売りは、俺を見ると満面の笑顔を浮かべた。
斬りたい。
「殿に薬は必要ない。帰れ」
「しかし、いかほどに健康でいらっしゃる殿様にも、ひとつやふたつ、悪いところはおありでしょう」
なおも薬売りは食い下がった。
「確かに悪いところはある。だが、馬鹿につける薬は無い」
薬売りは帰っていった。
妙な人間から殿を守る。
これも、殿様の御ためだ。
今日もいい仕事をした。
PR
島津の家臣、上井覚兼が遺した日記は、数百年後の世で有名らしい。
その日考えたこと、その日の自分の体調のことなど、生活感のある日記だと聞く。
上井風情が書くなら、俺も書いてみようと思い、さっそく城下で30年日記を買った。
これから30年間、…あぁそうだ。
俺は別に、生活感のある日記にしようとは考えていない。
殿さまの御ために、行動したことを書き綴っていくつもりだ。
たとえば、今日は。
あまりに話を聞かない殿のために、蹴りを入れて差し上げた。
これも、あのガキ殿の御ためだ。
それにしても。
30年後、俺はここにいないように思われるのだが、気の迷いだということにする。
まさか殿に罪人扱いされたり、一族皆殺しにされることはないだろう(笑)。
その日考えたこと、その日の自分の体調のことなど、生活感のある日記だと聞く。
上井風情が書くなら、俺も書いてみようと思い、さっそく城下で30年日記を買った。
これから30年間、…あぁそうだ。
俺は別に、生活感のある日記にしようとは考えていない。
殿さまの御ために、行動したことを書き綴っていくつもりだ。
たとえば、今日は。
あまりに話を聞かない殿のために、蹴りを入れて差し上げた。
これも、
それにしても。
30年後、俺はここにいないように思われるのだが、気の迷いだということにする。
まさか殿に罪人扱いされたり、一族皆殺しにされることはないだろう(笑)。